忙しい日常に一服の清涼剤とスパイスを。働く女性のための新しい癒やし?漫画3選

まとめ

「癒やされたい」「癒やしがほしい」というフレーズを、私たちは呼吸をするように口にする。「癒やし系」という言葉が定着して久しいし、それくらいに私たちはしょっちゅう疲れている。
そういう時に「癒やし」を与えてくれるものは、ネコ動画かもしれないし、おいしい食べ物かもしれないし、誰かとのコミュニケーションかもしれない。
そしてもちろん、漫画をはじめとしたフィクションだって、極上の「癒やし」をもたらしてくれることがある。
今回は、大人の女性がそれぞれ異なるささやかな「癒やし」を得る漫画3作を紹介したい。

OLたちのフフッと笑えるライフハック(?)集『彼女のやりかた』

彼女のやりかた
©田所コウ/リイド社

『彼女のやりかた』(田所コウ)は、20代〜アラサーと呼ばれる年齢のOLたちの送る、小さな「秘密」が潜む日常を描いた短編集。
各作品の主人公たちは、ストレスフルな会社員生活の中で、人にはなかなか理解されないかもしれない楽しみを持ったり、発見したりする。
誰よりも早く出社するために、後輩のPCのデスクトップに“ある写真”を表示した状態で退勤したり、給湯室の壁の汚れが“ある文字”に見えることに気づいたり、工事の音にまぎれて会議中に“ある言葉”を口走ってみたり…。
そのどれもが、「気づいた(知った)人はちょっとビックリしてしまう」程度のごくささやかな行為であるところがほほえましく、痛快で、クスリと笑わせてくれる。
ちょっとだけ毛色の異なる最後の1編も含め、働く女性の神経を優しく刺激してくれる、読後感のさわやかな作品だ。

固くなった頭と心をさりげなくほぐす『タピシエール 椅子張り職人ツバメさん』

タピシエール 椅子張り職人ツバメさん
©関根美有(秋田書店)

お父さんの跡を継いでタピシエール(椅子張りを中心として布製品全般を扱う職人)になったツバメさんと、アパレル販売員をしているおさななじみの小泉さん、ツバメさんのアトリエに出入りする小学生・たくみくん、ツバメさんに仕事を依頼するいろんな人たち…の物語、『タピシエール 椅子張り職人ツバメさん』(関根美有)。
耳慣れない職業の内幕や、あまり知る機会のない「椅子」についての知識に触れることができるところも楽しいが、本作の一番の魅力は、どんな言動も、どんな出来事も、頭ごなしに否定せず、さりげなくいろいろな見方を提示してくれる、そのしなやかな語り口だ。
「それってどうなの?」と思ってしまうようなことに直面しても、「でも、それってつまりこういうことでもあるよね」「もしかしたら、こうなのかもしれないよね」という柔軟な視点を、少ないページ数の中で、ツバメさんたちは示してくれる。
イラストレーション的な絵柄も含め、漫画を読み慣れない人にもおすすめしたい、頭と心がほぐれる漫画だ。

「アイツがいる」の安心感。20代女子2人のルームシェア物語『ストレッチ』

ストレッチ
©アキリ/小学館

『ストレッチ』(アキリ)は、ルームシェアをしているOL・慧子と女子大生・蘭の、なんでもない日常生活のスケッチ集。
ふたりは何かにつけてストレッチで身体をほぐす。そのストレッチのやり方と効果がわかりやすく解説されているのがユニークな点で、参考にしたくなる。
落ち着いたテンションといい、美しく整理されたストレスを与えない画風といい、読んでいてそのまま気持ちよく寝落ちしてしまいそうな漫画ながら、ポイントなのは、物語が進むにつれ少しずつ、ふたりの背景にある影の部分も顔を出してくるところ。
大っぴらに口には出さずとも、いつしか信頼し合うパートナー同士になっているふたりは、お互いの存在をそっと支えにしながら、自らの問題に肩肘張りすぎずに向き合っていく。
目をそらし続けるのではなく、解決を試みること。そういう意味での「癒やし」にもつながっていく物語だ。

「癒やし」とは、ただほっとさせてくれるだけの、ゆるふわな物事のことを指すのではない。
「治癒」の「癒」だ。傷ついて疲弊した心身を救ってくれるものだ。そんなヒントが漫画には詰まっていることを、本稿を書いていて改めて実感した。
忙しい時ほど、漫画で「癒し」を得てみてほしい。

彼女のやりかた/田所コウ リイド社
タピシエール 椅子張り職人ツバメさん/関根美有 秋田書店
ストレッチ/アキリ 小学館