メンタルヘルスに効く奮闘エッセイ漫画3選

まとめ

うつ病、パニック障害、統合失調症、過食症、拒食症、ヒステリック……これらの精神障害は、風邪などの病と同様に、いつだって私たちが当事者になりうるものだ。しかし、なったことがない多くの人々に、その症状の辛さや心境を理解してもらうのは難しい。「結局甘えなんじゃないの?」なんて辛辣なことを言われてしまう可能性だってある。
 
そんな当事者の孤独は、同じようにその病と向き合い戦う人たちの姿をみることで癒されるかもしれない。

今回は、メンタルヘルスを患う当事者が自身の奮闘を描いたエッセイ漫画をご紹介。症状が重たい人はもちろん、落ち込みやすい、怒りっぽい、など、性格面で悩みがある人にも解決の一助となるような作品を集めてみた。
 

等身大の苦しみを赤裸々に描く『一人交換日記』

 

一人交換日記
©永田カビ/小学館
 
pixivで連載されていた『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』が大反響を呼び、一躍注目を集めた漫画家・永田カビ。風俗利用レポの次は、彼女自身のことを描いたエッセイ漫画『一人交換日記』を連載することになった。未来の自分に向けて、近況を語るという当作品は、前作同様彼女の苦しみが赤裸々に描かれている。
 

 
28歳の彼女は実家暮らし。「21時には帰ってこい」なんていう父親のセリフに辛くなった彼女は、実家から出ることを決意。自立した生活へと一歩踏み出す。
 
一般的に、28歳というのは、とうに自立していてもおかしくない年齢だろう。だから読んでいると、どうしてもいい歳をした大人が甘えたことを言っている、という風にとられてしまうかもしれない。
 

 
しかし、実のところこういった寂しさは誰しも少しは感じているものかもしれない。
 
あまりの寂しさに耐えきれずれず風俗を再利用する回で、彼女は自分の体が冷えて仕方なかったという話をする。寂しくて体を持て余す苦しみや、それにじっと耐える夜、人肌恋しくなる瞬間、そういう辛さは多くの人が経験したことがあるだろう。彼女はそれを人よりもちょっと敏感に受け止めてしまっているだけかもしれないのだ。
 
うつ病を患う作者のエッセイ漫画ではあるが、等身大の悩みを赤裸々に描いたという点でとても勇気がある。「こんなちっぽけなことで悩んでる私って……」と自己嫌悪に陥りがちな人にとっては、悩みを共有できる友達を得たような気持ちになる作品かもしれない。
 

ヒステリックにとっての特効薬『キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~』

 

キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~
©田房永子/竹書房
 
「キレやすい」とだけ書くと、単なる性格の傾向的な話にしか思えないかもしれない。しかし、キレた結果、相手の肩にパンチしたり、ものを投げつけたり、ヨーグルトを撒き散らした挙句踏みつけたり、裸足で外に走り出したりするのであれば、それはちょっと異常である。
 

 
著者は、毒親で苦しんだ半生を描いた漫画『母がしんどい』で有名な田房永子。彼女は結婚をし、実家を離れ、旦那と子供と3人暮らしをしている。毒親から解放されて平和な日々が始まるのかと思いきや、彼女はだんだんと自分自身のヒステリックな症状に気づき始める。
 
旦那が起きるのが遅いだけで、怒鳴り散らす。
 
片付けができていないことを指摘されるだけでキレてしまう。
 
喧嘩中に一人でヒートアップして相手の肩を殴ってしまう。
 
本作品では、そんな自分を変えたいと、いくつかのカウセリングを受けたり、書籍で心理学を学んだり、過去を振り返って分析したりなどする、彼女の試行錯誤と思考の跡が描かれている。
 
特に効き目のあった「ゲシュタルト療法」についてその治療法などが詳細に描かれているほか、怒りがどうして起こるのかも構造的に描かれているので、ヒステリックといわないまでも、怒りっぽいことに悩んでいる人には役に立つ情報が多く含まれているだろう。
 

 
作者があとがきで、「即戦力のある本」を目指した、と述べている通り、単なるエッセイ漫画というよりもかなり実用書に近い内容である。怒り沸騰で自分を見失いそうなときに読みたい一冊。
 

統合失調症で何度廃人になっても諦めない『人間仮免中つづき』

 

人間仮免中つづき
©卯月妙子/小学館
 
幼いころから患っていた統合失調症の症状が重たくなり入退院を繰り返す中、25歳年上のボビーと恋をして楽しい日々を過ごすも、ある日突然衝動的に歩道橋からダイブ。顔面崩壊、片目を失明。そんな壮絶な半生を描いた『人間仮免中』が大ヒットし、その約4年半後に続編となる『人間仮免中つづき』が出版された。
 
基本的には一話完結のエッセイ漫画なので、前作を読んでいなくても十分面白い作品だ。
 
続編となる当作品は、統合失調症である彼女に世界がどう見えているか(幻覚・幻聴が見えてしまう)、その苦しみと葛藤、そして何よりも病気に負けずに戦う彼女の強さが鮮やかに描かれているという点で、前作に比べてよりポジティブな読後感を得られる印象だ。
 

 
ちなみに、25歳年上のボビーは、作中で69歳という年齢を迎えている。
 
世間一般で言えば「老人」であるが、彼は彼女への献身的な介護を欠かさない。
 
症状が重たくなっていく彼女は、部屋から一歩も出られないどころか、自分で着替えやお風呂に入ることもままならなくなる時期がある。そんな彼女の世話をすべて担い、食事を作ってやり、寝てる最中におもらしをした彼女の布団を嫌な顔ひとつせず片付ける。
 

 
そんなことを言うと、まるで彼が聖人君主のように思えてしまうが、ボビーも人間である。機嫌が悪くなったり、癇癪で家を飛び出したり、理不尽なことを言ったりと、何かとお騒がせなところもある。特にこの続編では、自分が年老いていくことに対する葛藤もあり、その苦しみから彼女と大きな喧嘩をするシーンもある。
 
ちなみにその喧嘩の最中に、老いで落ち込むボビーに彼女が喝破したセリフがいい。
 
卯月妙子「病気 抱えて どうにもなんねえ中、何回も廃人になって何回もリハビリしてその繰り返しので生きてんだ、おれはよぉ‼︎ 老化ぐれえで知ったふうな口利いてんじゃねええ‼︎」( p.161より引用)
 
新薬を試しては副作用に苦しみ、幻聴や幻覚が日常的に現れ、強い薬を飲みすぎて内臓をやられるなど、そこには想像のはるか上をいく壮絶な日々が描かれている。しかし、そこには不思議と悲壮感がない。
 
あるのは、その症状と、それと戦う作者と、それを献身的に見守るボビーの姿。
 
お互いに弱い部分を見せ合いながら、それでも生活を楽しく過ごそうという二人の姿は、真の強さを見せてくれているような気がする。
 
以上、メンタルヘルスに効く奮闘エッセイ漫画3作品をご紹介いたしました。
 
繰り返しにはなりますが、もしあなたが精神的にしんどいな、辛いな。なんて思った時には、「そうした病と向き合い、戦う人たちの姿をみることで癒されるかもしれない」という選択肢を思い出してみてほしい。その姿を見る映し鏡として、漫画という媒体を選ぶ方法もあるのだから。
 
 
一人交換日記/永田カビ 小学館
キレる私をやめたい ~夫をグーで殴る妻をやめるまで~/田房永子 竹書房
人間仮免中つづき/卯月妙子 小学館