まんが王国ラボ

『信長の忍び』だけじゃない!重野なおき先生のオリジナルギャグ4コマ特集

群雄割拠の戦国時代に突如として現れた天才・織田信長。「神速」と恐れられた彼の行動力と決断力の裏には、ひとりの女忍びの活躍があった――。

TVアニメも3期まで放送されている『信長の忍び』の魅力は、ギャグ4コマ×戦国時代という今までになかった組み合わせにあります。本作から派生したスピンオフも多く、作者の重野なおき先生は「戦国4コマ」の第一人者と呼んでもいいでしょう。

しかし、元々は戦国4コマではなくオリジナルの4コマ漫画を描かれていた方で、個人的にはそちらのイメージのほうが強いんですよね。もちろん現在の活躍ぶりはうれしいのですが、またオリジナル作品も描いてほしいな……と思うこともしばしば。

他の4コマ漫画で時折見られる「サブタイトルがオチになっている」手法を使い始めたのも、私が知る限りこの方が最初のはず。今回はそんな、4コマ漫画の歴史を語る上で欠かせない重野なおき先生の代表作を3つ紹介いたします。

重野なおき先生の原点にして頂点『GoodMorningティーチャー』

©重野なおき/竹書房

大学を卒業してすぐ、重野なおき先生は漫画家としてのキャリアをスタートさせます。その記念すべき初単行本作品が『GoodMorningティーチャー』です。

早起きが信条の熱血教師・東進太郎。社会科教員として高校に赴任した彼を待ち受けていたのは、遅刻やサボりの常習犯、先生よりも賢い天才少年、留年を重ねてすでに成人している番長、その番長の幼馴染の柔道少女と、一筋縄ではいきそうにない生徒たちでした。

体育祭に学園祭、部活、恋愛(生徒×生徒、教師×生徒、教師×教師)、他校の不良との決闘、受験、そして卒業……と、学園漫画と聞いて想像できる要素はすべて詰め込まれたボリューム満点の一作。生徒たちとともに笑い、悩み、成長していく、ひとりの先生の姿が描かれます。

ちなみに、作者の重野なおき先生も中学校の地理歴史の教員免許を取得されています。

もともとは学校の先生を目指していたそうですが、教員採用試験に落ちてしまったため漫画家になったとのこと。作中で日本史を学ぶ意義を熱弁する東先生の言葉は、作者自身が実際に教壇に立って生徒たちに語りたいものだったのではないでしょうか。

『信長の忍び』を読んで、それまであまり知らなかった武将に興味を持った方も多いと思います。学校の先生にはなれませんでしたが、歴史の奥深さを伝えたいという作者の願いは、別の形で叶えられたのです。

見た目や性格は違っても、同じものがひとつだけある『うちの大家族』

©重野なおき/双葉社

千葉県に暮らす、三男五女+父親+犬の大家族・内野家の日常を描いたファミリー4コマ。単行本全15巻、連載期間16年は、どちらも重野なおき先生の作品の中では最多(最長)です。

きょうだいたちは見た目も性格もまったく似ておらず、いつもおかずの奪い合い、テレビのチャンネル争いなどのケンカが絶えません。それでも、食事のときは必ず一家全員が居間に集まります。今どき珍しい大家族ですが、きょうだいが多いのも、ケンカをするのも、全員で食卓を囲むのも、内野家では当たり前なのでしょう。

家族全員を紹介するには、当レビューの文字数はあまりにも少なすぎる……。というわけで、ここでは大黒柱の父親・茂雄に絞って書かせてください。

タバコ、パチンコ、競馬、アイドルのおっかけと、収入のすべてをお金のかかる趣味に費やしていた青春時代。しかし、結婚して子どもが生まれる度にそれらの趣味を1つずつやめていき、今では夕食時の1杯のビールだけが唯一の楽しみに。

妻に先立たれ、家でも会社でも立場が弱い、さえない中年サラリーマン。それでも彼は今、間違いなく幸せの真っ只中にいます。自分を愛してくれた妻との思い出と、妻が遺してくれた子どもたちの笑顔があれば、他には何もいらないのです。

重野なおき先生自身も、本作の連載中に漫画家の藤島じゅん先生と結婚し、2人の子どもの父親になっています。『GoodMorningティーチャー』が作者の仕事観を描いた作品だとすれば、『うちの大家族』は作者の家族観――人生観を描いた作品といえるかもしれません。

重野なおき作品は群像劇以外も面白い『ひまじん』

©重野なおき/芳文社

『GoodMorningティーチャー』と『うちの大家族』に共通するのは、登場人物が非常に多く、かつどのキャラも個性的であるということ。

主要キャラだけでも10人近いのに、設定が被っていたり、扱いの悪い子がひとりもいないんですよね。重野なおき先生のこうしたキャラクターメイキングのうまさが、数多くの武将が登場する『信長の忍び』などの戦国4コマにも活かされているのは言うまでもありません。

しかし、『ひまじん』の登場人物はたった2人。会社を辞めてからずっと家に引きこもっている森川つぐみと、友人の和久井理沙。基本的にはこの2人が、つぐみの住むワンルームアパートでだらだらお喋りしている様子が延々と綴られます。

すぐにネタが尽きてしまいそうですが、『ひまじん』は単行本全7巻、連載期間12年という、作者の作品の中でも長寿の部類に入ります。それはひとえに、他の漫画ならネタにならないような些細な出来事も欠かさずネタにしているからでしょう。

暇潰しの天才であるつぐみにかかれば、観賞用サボテンすらも立派な話し相手に。わざわざ外に出なくても、選挙活動中の政治家が大声で公約を叫んでいたり、某公共放送局の職員が受信料を取り立てに来てくれるので、話題には事欠きません。

私自身、ライター用の原稿やブログ記事を書いているとき「ネタがない……」と悩むことがよくありますが、『ひまじん』を読むとそんな考えは甘えだと気付かされます。面白いネタは、私たちの生活の中にいくらでも転がっているのですから。

おわりに

ひとくちに「4コマ漫画」といっても、今は様々な作品があります。スマホで読むことを意識したワイド4コマ(1ページに1本の横長の4コマ)が増えていたり、4コマ漫画とストーリー漫画が1話の中で混在していたり。

そうした時代においても、重野なおき先生は1ページに2本、4コマ目には必ずオチ(区切り)をつけるという、昔ながらの4コマ漫画のフォーマットを徹底的に守り続けています。その上で『信長の忍び』のように壮大な大河ドラマを描くこともできるのですから、もはや職人技と言っても過言ではないでしょう。

「まんが王国」にも、重野なおき先生の漫画は15作品配信されています(2018年12月時点)。もちろん全部4コマ漫画。今回ご紹介した3作品以外も傑作揃いなので、気になるものがあればぜひ手に取ってみてください。

GoodMorningティーチャー/重野なおき 竹書房
うちの大家族/重野なおき 双葉社
ひまじん/重野なおき 芳文社