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女子大生が恋をした相手は……。映画を通して近づく2人を描いた『水曜日のシネマ』

これは、1つのラブストーリー。ヒロインは、アルバイトを始めたばかりの18歳女子大生。そして恋をした相手は、42歳の店長だった……。これが、『水曜日のシネマ』の大まかなあらすじだ。この作品がユニークなのは、24歳もの年の差恋愛が描かれているという点だけにあらず。映画紹介漫画としても読めるところだろう。

作中には、実にさまざまな映画が登場する。例えば、「ニュー・シネマ・パラダイス」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」、「E.T.」、「フォレスト・ガンプ」などなど。これらは、いわば名作と呼ばれている映画だ。観たことはなくとも、タイトルだけなら知っているという方も多いだろう。これらの作品が、『水曜日のシネマ』のストーリーに大きく絡んでくる。

©Tao Nohara/講談社

勇気を出した一言から恋が始まる

主人公・藤田奈緒は、18歳の女子大生。進学や1人暮らしをきっかけにレンタルビデオ店でアルバイトを始めるが、初バイトということもあって戸惑うこともしばしば。接客中の挨拶1つとっても言葉足らずなことがあり、先輩たちと比べて「自分は子供だ」とか「何も知らない」と感じることが多い。そしてそんな疎外感をより一層強くさせる要因が、彼女が映画を全く知らないということだった。当然、映画に関するお客様からの質問にも上手く答えられない。

そんな奈緒に手を差し伸べたのが、店長の奥田一平だった。仕事はできるようだがぶっきらぼうで愛想がなく、奈緒は店長に苦手意識を持っていた。しかし、店長は無類の映画好き。映画の話となると雰囲気は一変し、まるで子供のような表情をする。そんな店長の様子を見て、奈緒は自分を変えたいという思いから勇気を振り絞って声をかける。「好きな映画はなんですか?」と。これがきっかけとなり、仕事が忙しくない毎週水曜日、お店の休憩室で一緒に映画を鑑賞することに。こうして2人は徐々に距離を縮めていくのだった。

映画的な表現にも注目!

奈緒と店長、2人の映画鑑賞シーンはこの漫画の大きな見どころだ。当たり前だが、映画を観ている間は動きがほとんどない。それをそのまま絵にするとなれば、なんとも地味なシーンになってしまうだろう。しかしながら本作では、2人が映画に熱中している姿を見事に表現する。例えば、主人公が過去にタイムスリップする映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観ているときは、2人が宙に浮き、その上を車型タイムマシン“デロリアン”が飛ぶシーンを描くといった具合に。また鑑賞後に、奈緒が店長の過去に想いを馳せるなど、取り上げた映画のストーリーが2人の物語に絡んでくるのも面白い。

まるでカメラで撮影しているかのように、人物の小さな仕草を丁寧に拾い上げる描写も印象的。店長の足の動きで、映画の話にうずうずしている様子や、映画鑑賞に熱中していく様子を表現するなど、セリフがなくても人物の心情が伝わってくる。

映画鑑賞のきっかけに

たくさんの映画が物語を彩る『水曜日のシネマ』だが、もちろん映画に詳しくないという方でも十分に楽しめる。今から映画を観始める1つのきっかけにもなるだろう。もしかすると、うるさい映画マニアから「コレを観たことがないなんて人生を損している!」などと鼻息を荒くして言われたことがある人もいるかもしれない。実際に作中では、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観たことがなかった奈緒が、バイト先の先輩からそのような言葉をかけられている。
しかし、そんな奈緒に対する店長の言葉はとても素敵だ。彼の一言は、「羨ましいなぁ」というもの。これは皮肉でもなんでもない。何度観ても面白い傑作を、何も知らない真っさらな状態で鑑賞できることを心底羨ましがっているのだ。こうした彼の人柄からも、奈緒が店長に惹かれた理由が分かる気がする。今のところは、奈緒が一方的に店長へ好意を寄せている状況だ。ここから2人の恋はどのような展開を迎えるのだろうか。ぜひ読んでみてほしい。

水曜日のシネマ/野原多央 講談社