淫魔の悩みはなかなか理解してもらえない。苦労続きのサキュバス漫画特集

レビュー

男の夢のひとつ、サキュバス。命の危険はともかく、魅了されてみたい、という妄想は昔から創作物の中で絶えないもの。

ところが最近の漫画に出てくるサキュバスは、苦労人が多い。

現代社会で健気に頑張り続けるサキュバスヒロインたちをご紹介。

サキちゃんは今夜もぺこぺこ
©みこくのほまれ/studioHIP-CATs/芳文社

エロ度は一般誌だと限界ギリギリレベルの、超生殺しサキュバス漫画。

35歳独身の太田恋太。彼の家の前に倒れていたのは、ムチムチな女の子・道野サキ。気を失っている彼女を持ち上げた時、恋太はムラムラが止まらなくなる。

サキュバスのサキは、精が足りなくなると猛烈におなかが減る。空腹になると強烈なフェロモンを発し、男性を無意識のうちに興奮させてしまうらしい。

サキは結婚を夢見る乙女。恋愛抜きで吸精したくない、と訴えていたら、家を追い出されてしまって放浪中。かくして、恋太とのルームシェア生活が始まる。

恋太はサキがお腹がへる度に、激しすぎる誘惑と戦うことになる。とはいえ、女の子の純粋な決意を「諦めろ」というのは、あまりにも酷な話。

絶対に手を出さない紳士で童貞力高い恋太と、彼に迷惑をかけないよう必死に抗うサキの2人には、敬意を評したい。はよくっつけ。

でびるち
©むすあき/CIMICSMART INC/アース・スターエンターテイメント(ジャム・ティービー)

人が苦手で孤立してしまうサキュバス少女の悲しみを描く、青春ラブコメディ。

クラスの中でもひときわ目立つ美少女、咲場ヨミナ。正確には悪魔と人間のハーフのサキュバスなので、性的な行動はとっていない。

一応自分が悪魔族の血筋だというのがバレないように、人と距離をおいている。ただそれ以上に、彼女はかなりの人見知りなのを、クラスメイトの冬樹は知る。

原因は、彼女が幼少期にいじめにあっていたことだ。いじめ描写はかなりハードめ。

サキュバスだからこそ、人間社会から忌避されてしまう。途中から天使たちも登場、彼女の立場は狭まるばかり。

けれども少しずつ友人ができてくる。彼女を敵視してきた相手とも打ち解けていく。守ってあげたくて仕方なくなるヒロインだ。

ヨミナに恋をして、一生懸命支えになろうとする冬樹の姿も愛しい。心の底から2人の幸せを祈りたくなる作品。

おとめサキュバス
©ぬっく/芳文社

極度の男性恐怖症のため、男がいない所に行くことを選んだサキュバス……という変化球な作品。ほぼ女の子しか出ないため、百合要素がとても高い。

人間界に潜入したキュリア。男という言葉を聞くだけでも苦しんでしまう彼女は、とりあえず少しずつならすために女子校に転入。

一緒にやってきたルナは、サキュバスらしいことを少しでも教え、男になれさせようと特訓を開始。でも一向に成長してくれない。

エロ展開は少なめ。おっちょこちょいなキュリアを囲む、人間の友人とのやりとりが楽しい4コマ漫画。なにより、ずっとそばにいるツンデレ気味なルナの、キュリアへの友情を超えた感情が、ニヤニヤもの。サキュバス同士だと吸精できないんですかね。

アロマちゃんは今夜も恥ずかしい
©Chiyo Kenmotsu/講談社

好きな男の子に近づきたいけどできない、内気なサキュバスが能力全開で頑張っちゃう、夢の中の出来事を描いたラブコメディ。

サキュバスの夢月香(あろま)は、同じクラスの池水優間に絶賛恋愛中。照れ屋なので近づくことも話しかけることも、全くできない。

彼女は人の夢に入り込む能力を持っている。優間の夢の中でなら、頑張って話しかけられるはず……。

夢から覚めたらいつもどおり。結局学校では話せずじまいで、進展はゼロ。もっとも夢自体はぼんやり覚えているので、優間がどんどん香のことを意識してしまうのが、物語のポイント。

舞台が夢なので、バラエティ要素強め。中でも戦隊ヒーローものの夢で、エッチな辱めをうける香のフェチっぷりは必見です。

亜人ちゃんは語りたい
©ペトス/講談社

人間社会の中で亜人が暮らすのは大変。平等に暮らせるようにするにはどうするべきかを、社会福祉・生物学的観点から描く作品。

亜人の一人、数学教師の佐藤早紀絵(さきえ)。普段はジャージをがっちり着込んで、メガネをかけて目立たないようにしている。

サキュバスの彼女は「自分に対する性欲を亢進させる催淫」の性質を持っており、意識が緩むとばらまいてしまう。自制をして気をはっていれば、周囲に催淫効果は及ばない。だから人に迷惑をかけないようにしている努力の一環として、地味な格好をしているのだ。

ところが睡眠時だけは抑えられない。集合住宅には住めず、ど田舎の一軒家で暮らしている。満員電車は危険なので、始発と終電で通勤。あまりにも不便。

開き直らず、社会で生活する一員として耐え続ける彼女。良心から自分を律し続けている。自らの性質がかせになる様子は、まるで呪いだ。

彼女の悩みを、理知的に分析。伝説と一蹴せず、個性をどう受け入れていくか、前向きに取り組んでいるのが、この漫画の魅力だ。

サキュバス漫画はウブな「おちものヒロイン(突然少女がやってきた、というスタイルの作品群)」の場合と、自らの厄介な性質を苦にする場合の、二通りに大きく分かれている。

前者はヒロインのサキュバスの、主人公男性への距離感の悩みが見どころ。通常のラブコメにエロ成分を上乗せして見せてくれるので、美味しさ二倍。

後者には、サキュバスという個性を題材に、人間関係のあり方を問う作品もある。性が先走る生活なんて望んでいない彼女らには、本当の愛が必要だろう。

思いっきりエロティックなサキュバスもいいけれども、人が羨む力がマイナスに作用するからこそ、性的なヒロインの魅力がより際立つのだ。

サキちゃんは今夜もぺこぺこ/みこくのほまれ studioHIP-CATs 芳文社
でびるち/むすあき CIMICSMART INC アース・スターエンターテイメント(ジャム・ティービー)
おとめサキュバス/ぬっく 芳文社
アロマちゃんは今夜も恥ずかしい/Chiyo Kenmotsu 講談社
亜人ちゃんは語りたい/ペトス 講談社