20年の時を超えてもなお輝き続ける名作『神風怪盗ジャンヌ』がスゴい

レビュー

いや〜〜〜〜、すごい作品ですわ。
 
記事を書くにあたって、久々に、それこそ10年以上ぶりに読み返して、一言めの感想がそれだった。
 
単行本2巻目でアニメ化が決定し、売り上げ累計は全7巻にして500万冊を記録。
 
『キューティハニー』や『リボンの騎士』などからその潮流が生まれ、『美少女戦士セーラームーン』シリーズで広く一般化した“バトルヒロイン”なるジャンル。
 
その世界に新しい風を巻き起こし、りぼんっ子をワクワクとドキドキでいっぱいにした超名作。
 
もう世代のみなさんはもう分かりますよね!? 懐かしさにエモ爆発して倒れる準備はできてますか、アラサーのみなさん!!
 
そう、紹介するのは種村有菜先生の代表作『神風怪盗ジャンヌ』です!

 

神風怪盗ジャンヌ モノクロ版
©種村有菜/集英社
 

ジャンヌのここがすごい①:新しいバトルヒロインの設定

 
とある街で、美しい絵画ばかりを狙う女怪盗が巷を賑わせていた。女怪盗の名前は「怪盗ジャンヌ」。
 

 
警察を翻弄し、華麗に絵画を盗みさっていく彼女。なぜか彼女に絵を盗まれると、絵画が美しい天使の絵に書き換えられるという……。
 

 
主人公の日下部まろんは高校2年生。言わずもがな、怪盗ジャンヌの正体である。
 

 
表向は普通の女子高生だが、天界より遣わされた準天使、フィン・フィッシュから授けられたロザリオを使って怪盗ジャンヌに変身するのだ。
 

 
彼女が絵を盗むのは、美しい絵画を売りさばくため……などではなく「絵画に取り憑いた悪魔」を祓うため。
 
はるか昔から、世界を手にしようと企んでいた魔王は、世界を守る神の力を衰弱させる方法を思いついた。
 
それは、美しい絵画に入り込んで、見た者の「美しい心(神の力の源)」をむしばんでいくというもの。
 

 
その昔、神からの啓示を得て戦った聖女・ジャンヌダルクの生まれ変わりであるまろんは、神の力が破られようとしているいま、退魔によって人を救い、世界を守っているのだった。
 
美少女の戦いに変身の要素が加わって成り立つ「バトルヒロイン」モノに、さらに怪盗という要素が加えられ、さらにさらにその背景にある神の世界での攻防。
 

 
そして、まろんにちょっかいをかける謎の転校生、名古屋稚空(なごやちあき)との恋や、
 

 
ジャンヌを捕まえようと奔走する刑事の娘であり、まろんの幼馴染でもある東大寺都(とうだいじみやこ)とのドタバタや友情。
 

 
そして「君に怪盗をやめさせたい」と任務の阻止をする謎の男「怪盗シンドバッド」との戦いも勃発する。
 
序盤からフルスロットルの複雑な設定に、おもわず「よくできた漫画やでェ……」とため息が。『ジャンヌ』自体は種村先生が中学生の頃からあたためていた作品だというが、
 
この連載が始まった当時、種村先生まだハタチとかだったとか。どんだけだよ……。
 
当時は今までにない作風から、様々な感想がこの作品に向けてかけられていたが、ハタチでこの物語が書けてしっかり完結できてる時点でもう、どんな周りからの声も外野にしかならない。
 

ジャンヌのここがすごい②:とにかく絵が緻密

 
ジャンヌふたつめの魅力は、超絶技巧のアナログ絵。
 

 
天使の羽とかフリルとか髪の毛とか、とにかく絵が細かく、しかもそれが全部アナログで描かれていること(しかもカラーもアナログ着色。現在も先生はなるべくアナログ着色らしい)。
 
緻密な描き込みとシーンごとの雰囲気を反映させたトーン使いは当時から話題にはなっていたけれど、あらためて見るとその熱量に驚かされる。
 
また、少女漫画らしからぬコマ割りの強弱もいい。
 
トーンが多く、画面が埋まりがちな「りぼん系漫画」の中でも、種村作品はそれが顕著だし書き込みも緻密。なのに重苦しさがないのは抑揚のつけ方がうまいから。
 

 

 
小さなコマがポツポツと続いて大ゴマどーん!な強弱のある構成は、どちらかというと少年漫画のそれ。
 
高校生の時「目がでかいし絵柄が合わん」「フリフリが多すぎる」って拒否してた男の子に無理やり読ませたら、速攻で続きを懇願する犬っころと化したので、少年漫画好きも楽しめる内容となっています。
 

ジャンヌのここがすごい③:エモい表現の連続

 
また、読者の心にグサグサ刺さる表現も魅力的。
 
キャラクターたちの(ひいては種村先生の)紡ぐ言葉は、少年・少女漫画的なストレートな表現と、読者の心の隙間の形に応じて入り込み方が変わるような、ポエティックな表現が絶妙に混ざり合っている点が特徴だ。
 

 

 
ジャンヌのなかの「あの言葉」が好き!という読者も多いのではいだろうか。
 
漫画というジャンルを超えて、壁にぶつかったときに読みたい詩集的な言葉が、作品のなかにはぎゅっと詰まっている。
 

ジャンヌのここがすごい④:鬱展開がエグい

 
あ、ちなみにいうと「完全無欠の美少女怪盗が、魔王の企みを阻止阻止阻止〜!!」みたいな、勧善懲悪スカッと系漫画ではない。
 

 
重要なキャラクターがえげつない陰謀でめちゃくちゃ悲しい死に方するし、完全無欠に見える主人公のまろん自体もゴリゴリに闇の深い女だったりするし、読むのが辛くなるほどの裏切りがあったりするし……。
 
あれ? これりぼんだよね??
 
ストーリー重すぎすぎない???
 
愛らしい絵柄とは裏腹に、少女漫画らしからぬ絶望や孤独がまろんを、ひいては読者を襲ってくる。
 
しかし、その絶望や孤独の果てに、希望やあたたかな感動が待ち構えているので、どうか最後まで読み進めて欲しい。
 

ジャンヌのここがすごい⑤:エロい

 
「りぼん」といえば小学生向けの超王道大鉄板な少女漫画雑誌。キスシーンこそあれど、それよりも踏み込んだ行為は描かれることがなかったのだが……。
 
ただ『ジャンヌ』は違った。めちゃくちゃエロい。
 
稚空はまろんの服をはだけさせて首筋とか胸元にめちゃくちゃキスしてるし、
 

 
敵キャラはまろんの純潔を奪うことで神からの力を奪おうとするし、
 

 
物語終盤にはまろんと稚空の「そういう行為」が示唆されている。
 
(この頃『こどものおもちゃ』や『愛してるぜベイベ★★』など、性行為を匂わせる表現が作中に登場しはじめていたので、ちょうど『りぼん』自体が表現の幅に対する変革期だったのかも)
 
ページをめくるたびに「キ、キスって唇にするもんちゃうんか……」「じゅ、純潔を奪うってお前……」「これって絶対入ッ(以下略)」と、小学生に新しい知識を雷のように落としまくっていた。
 
キスマークが何たるかを『ジャンヌ』で学んだアラサーは多い。絶対多い。
 
ただ、昔はドキドキして終わっていた終盤のシーンだが、今になって読み返すと胸にくる。
 
神よりも大切な存在を認識し愛してしまう「原罪」に呪われながらも、大切な人の腕のなかで幸せを願うその姿に、図らずも泣いてしまった。
 
「なんかエロかったよね〜」程度の記憶しかない人は、今すぐ読み返して欲しい。マジでボロボロ泣いちゃうから。
 

自分自身を愛するための葛藤

 
いろんな「すごい点」を語ってきたが、この物語の本質は、自分自身の欠落から生まれる「弱い自分」を受け入れ、自分自身をどう愛するかという問いかけにある。
 

 
20年の時を超えてもなお輝き続ける名作『神風怪盗ジャンヌ』のスゴさは、きっと手に取ればわかるはず。あのとき夢中になった人も、敬遠していた人も、ぜひページをめくってみて欲しい。
 
脆弱な自分を「私は強い」という鎧で固め隠していたまろんが、人を愛することや愛されることを知って、ありのままの自分を愛することができるまで。まろんの成長を通じて、生きることの光と影や、大切な人と生きていける尊さをこの漫画は教えてくれる。
 
 
神風怪盗ジャンヌ モノクロ版/種村有菜 集英社