『こどちゃ』作者・小花美穂が描く、怖いけど読みたくなるトラウマ漫画『パートナー』

レビュー

パートナー
©小花美穂/集英社

私が小さいころ家の近所にレンタルビデオ店GEOがあった(今もあると思う)。
そこでは当時流行っていたコメディ映画「マスク」が壁一面に並べられていた。私はあの頃、「緑に塗られた外国人の顔」が怖くて怖くて、大泣きしたのである。それ以来GEOに一人で行った記憶がないし、平気になったのは大人になってからだと思う。

子供の時のトラウマは、なかなか忘れられないものがある。
今回紹介する『パートナー』は私にとっての初めてのトラウマ漫画である。怖くて泣いたとまではいかないが、しばらく近所の本屋の『りぼん』のコーナーに一人では近寄ることができなかった。

『パートナー』の作者は小花美穂先生。1998年に連載終了となった『こどものおもちゃ』、通称『こどちゃ』の次の作品がこの『パートナー』だった。
『こどちゃ』ではいじめや少年犯罪、家庭崩壊など社会的な重いテーマが扱われていたが、学園が舞台で小花先生得意のギャグも多く盛り込まれていた。打って変わって『パートナー』はシリアス&サスペンス。ギャグ要素も少なく、話が進むたび闇が深くなる超超超ダークな内容だ。

トラウマ漫画という認識があったので子供の頃以来読んでいなかったけれど、最近トラウマ漫画の一つ『漂流教室』を読み返して、すごく楽しめたので思い切って読んでみた。

読み返した感想は「怖い」じゃなく「面白すぎる」だった。

大人になって読み返してみると、残酷な物語に変わりはないが、とても興奮しながら読むことができた。「怖い」というよりも「面白すぎて一気読みしちゃう!」レベルだった。大人になるとは不思議なものである。

『パートナー』は一卵性双生児の桜沢(おうさわ)苗・萌姉妹と二卵性双生児の添田(そえだ)賢・武兄弟の4人中心に話が展開する。

萌と賢は付き合っており、武は苗に惚れている。苗は萌と賢が付き合う前、賢のことが好きだったのだが、そのことを萌が気にしたことで苗は萌に強く当たってしまう。翌日苗が仲直りをしようと決心したが、萌は交通事故で亡くなってしまう。

ここでさらにショッキングなことが起きる。
萌の遺体が行方不明になったのだ。

事件は解決しないまま夏休みに突入。最愛の恋人を失い生きる気力を失った賢を元気付けるため、クラスメイトの吉野の叔父の別荘へ遊びに行くことになる。少しずつ元気を取り戻していく苗たち。萌が亡くなったつらい現実を受け入れようとしていた。

しかし数日後、物語は急展開を迎える。
死んだはずの萌が賢たちの前に現れたのだ。

しかし賢が萌の手を引いた次の瞬間、

萌の腕は引き千切れ、地面に落ちる。腕を拾い逃げる萌を追いかけ、賢、武、苗はある研究所へたどり着く。そこで彼らは萌の遺体について、死んだ人間を生き返らせるための実験体として利用されていたことを知る。通称「L.S.P(Living Stuffed People)」、直訳で人間剥製。type.04のモエは、4体目の犠牲者であったのだ。

さて彼らはこの研究所を抜け出せられるのか……というのがあらすじだ。

それにしてもなかなかショッキングな描写・設定の数々である。物語の中では倫理観が崩れかけており結構平気で人が刺されたりしていくので驚くことが多かった。

トラウマを植え付ける話の数々。

読み返すうちに「これきっかけだわ、トラウマになったの」と思い出したシーンの数々。先ほどの萌の腕が前触れもなく取れるシーンもトラウマの一つである。「ゴトン!」て。

トラウマ回はいくつかあるが、1巻から「怖い!」ものと「辛い……」ものを一つずつ紹介する。

まずは「怖い!」から。type.01のセイタの話には当時トラウマを抱えた人が多いと思う。
L.S.Pの体内にはmvウイルスという菌が含まれており、死滅した細胞を生き返らせることができるのだが、これは生きた人間が触れると死に至る猛毒なのであった。

セイタはmvウイルスが腕に滲み出たまま部屋を抜け出し、イタズラ心で人に触れようとするのだった。

このセイタがめっちゃ怖い。無邪気に人を殺しにかかる。私の姉も『パートナー』について話した時「子供が追っかけてくる話が怖かったよね〜」と言っていた。

殺処分を命じられたセイタ。はたから見たら可愛い男の子。ここからがまた苦しい意外な結末となるので、ぜひ見届けてほしい。

次に「辛い……」ものを一つ。
監禁された賢・武・苗の3人は、研究所での生活を余儀なくされる。武と苗はたくましく脱出を試みて生きていこうとするも賢はナイーヴになり食事もとれない状態だった。

その様子を見た博士の行動が残酷なのだ。

モエに食事を運ばせ、賢へ食べさせることを指示したのである。

日本語もままならず萌としての記憶もないモエ。萌じゃないとわかっていても、見た目は萌だ。次第に言語や知能は上達していく。そこにいるのは萌なのか、ロボットなのか。衰弱していく賢が目の前にいるのが萌じゃないとわかっていてもモエに癒されていく。それを見つめている武と苗も相当苦しいだろう。

しかしこれは序の口。回が進むたびもっともっと残酷な展開が待っている。読めばノンストップ、何度も絶望することだろう。

大人になり読み返して本当によかった。改めて小花先生の物語構成の巧さに感服する。もし『パートナー』を子供の頃に読んでトラウマのままだったらぜひ読み返してほしいと思う。(読んだことない人もぜひ読んでほしい!)小学生の頃には絵柄や展開に大きなショックを受けていたとしても、大人になってから読むとそのストーリーや主人公たちの言葉の数々に考えさせられるものがある。トラウマと思っていた漫画は案外、大人になってから読むと発見や感動がある。人生で二度楽しめるといってもいいかもしれない。

私はそろそろ、映画「マスク」を観てみようと思う。

パートナー/小花美穂 集英社