18年前の「りぼん」でアンドロイド彼氏!ぶっ飛び設定の『電動王子様タカハシ』

レビュー
電動王子様タカハシ
©亜月亮/集英社

毎月18万部発行されている少女コミック誌「りぼん」。(SHUEISHA AD NAVIより)
世の中には一体どれだけの「りぼんっ子」がいるのだろうか。
世代ごとに思い出の作品が異なり、飲み会で「なんの世代?」なんて盛り上がることができるのは長く愛されてきた雑誌だからだと思う。

かくいう私は「りぼんっ子」だ。
1990年代後半から2000年代前半にかけてが私の現役りぼんっ子時代だった。

さて、わたしが現役だった18年前は椎名あゆみ・種村有菜・高須賀由枝・槙ようこなど、いまも少女漫画界で活躍する漫画家が名を連ねていた。
みなさんご存知だろうか。その当時、りぼんに掲載された少女漫画とは思えないぶっ飛んだ設定の『電動王子様タカハシ』という漫画が存在していたことを。

「女子高生が深夜番組でアンドロイドの彼氏を買う」というぶっとび設定

主人公は斉藤 小都、16歳。
片思いの相手・石田に告白を決心し呼び出すも石田には決闘と勘違いされヤケになっていた夜、たまたま流れていた通販番組から、「全国5千万人乙女のアンケートによる理想の男性像データから造り出した電動アンドロイド『タカハシ』」1号(60年間の品質保証付)を購入してしまう。

翌日思い直して返品しようとするも、「1度だけチャンスをください」と乞うタカハシの美貌に負けて2週間のお試し期間だけという条件で一緒に生活してみることになる。

……チャンスやるんかーい!(私の心の声)少女が王子様に弱いのは鉄板だ。少女漫画はこれだから面白い。

タカハシは長身・イケメン・頭が良くてなんでもできる(機能的に)超ハイスペック彼氏である。
小都は素直になれず石田と会うと喧嘩ばかりしてしまう。一方、ピンチの中で助けてくれたり優しい言葉をかけてくれたりするタカハシに「浮気もせず自分だけを愛してくれて60年間の品質保証がついているとなればかなりオイシイ話だよなあ」と、タカハシの購入を検討しはじめる。

そして石田と小都が大喧嘩となった時、

ついに小都はタカハシの購入を決意する。

……買うんかーい!(私の心の声)無鉄砲で金銭面など細かいところは気にしない。少女漫画はこれだから面白い。

小都の気持ちを知りながら、タカハシはどのような行動に出るのか。そこには心臓がキュッとなる展開が待っている。

「電動王子様」というぶっとんだ設定を全力で駆け抜けていく物語展開に笑いながら楽しめるはずだ。(ちゃんとキュンとさせる場面が入っているのがさすがだ。)

でも待って、改めて考えるとゾッとする。

『電動王子様タカハシ』はタカハシを開発した博士の「『王子様』を夢見てる女の子は世界じゅうにいるんだから」という言葉で締めくくられる。

「電動王子様なんてぶっ飛びすぎ〜」なんて笑いながら読んでいた話だが、2話目の「タカハシ2号・3号」も読み進めると意外にも「タカハシが欲しいかも……」と思うことがある。

もし本当に、自分だけのパートナーをアンドロイドで作ることができたら……
もし本当に、他人とのコミュニケーションを取ることがなくても恋人ができる世界になったら……

今回この作品を読み返した時、2013年に上映された映画『her/世界でひとつの彼女』を思い出した。舞台は近未来のアメリカ。妻と上手くいかず別居中の男性が、AI型OSの女性の声(今で言うSiriのようなものだ)に恋をするという話だ。彼は、妻と違い優しく話してくれるAIの声を心の拠り所にしていく。だが相手は自分の行動パターンによって学習をしていく人工知能だ。自分が答えて欲しい言葉を返してくれるようになるのは当然で、自分と相性が会うのは偶然ではなくすべて必然的なのである。

当時、「この恋愛はマスターベーションと同じだ」と思った。自分の理想に恋をし、自分の求めているもの以外を受け入れることができない。同時に周りの人間(妻など)とのコミュニケーションが息苦しくなってくる。

本来、自分とコントロールできない他者があるからこそ成立する恋愛関係が、自分一人で完結するものになる世界が来るかもしれない。「彼はいまなにを考えているかな」とか、「どうしたらもっと上手くやっていけるかな」なんて考えることもなくなるだろう。自分だけのために生き、裏切られることのない存在であるAIのパートナーができたら、傷つくことはなくなるかもしれないが他者との付き合いはもっと窮屈なものになるかもしれない。

18年前は夢や理想で終わっていた話だが、それが決して不可能ではなくなった現代のロボット社会だからこそ、ゾッとしてしまう。

そんな風に今の亜月先生作品を楽しむのもおすすめだ。

まずは楽しく明るく、『電動王子様タカハシ』、いかがですか?

電動王子様タカハシ/亜月亮 集英社