「ギャグ漫画界で語り継がれる伝説的作品『ピューと吹く!ジャガー』の魅力を改めて振り返る」

レビュー

「週刊少年ジャンプでの連載終了から8年経った」と聞いて「え、もうそんなに!?」と驚いてしまったのだが、どうやらもうそれくらい経ったらしい。時の流れはとんでもなく早いものだ。

うすた京介先生による大人気漫画『ピューと吹く!ジャガー』の話なのだけれど、ついつい懐かしくなって「もう8年かぁ」と思いながらパラパラとページをめくっていくと、やっぱりめちゃくちゃにおもしろくて、1冊…2冊…と読み進めてしまい、気づかぬうちに時間をごっそりと盗まれてしまった。

そんな『ピューと吹く!ジャガー』の魅力について、ここで改めて振り返りたい。

謎の男・ジャガーとピヨ彦の出会い

ピューと吹く!ジャガー モノクロ版
©うすた京介/集英社

ピヨ彦(ぴよひこ)こと酒留清彦(さけとめ きよひこ)は、大学進学も就職も蹴って、ギタリストを志望してオーディションを受ける日々を送る高校3年生。

そんなピヨ彦はある日訪れたオーディション会場の目の前で、謎の若い赤毛の男に出会う。

彼の名は、ジャガージュン市(じゃがー じゅんいち)。

たて笛とは思えないほどの激しいサウンドを披露した彼(どういう仕組みやねん)に圧倒されるピヨ彦だったが、無理やり笛を吹かせようとしてくるジャガーに対して「吹く楽器には興味がない」と言い放つと、ジャガーは涙を流してその場から走り去ってしまう。

しかし、その後もピヨ彦の行く先々でなぜかジャガーが現れ、ことごとくオーディションを邪魔される日々が続いてしまう……。

『ピューと吹く!ジャガー』は、主人公のジャガー(実はこっちが主人公)とピヨ彦を中心に繰り広げられる日常を描いたギャグ漫画だ。

個性豊かすぎるキャラクターたち

本作品はとにかくまともな人がほとんど出てこない。

キャラクター1人1人のクセが強すぎるせいか、日常系の漫画にもかかわらず、どのストーリーを見ても毎回キレッキレに尖っているのが最大の魅力だ。

ジャガーとピヨ彦は、なんだかんだあってスター養成校「ガリクソンプロダクション(通称:ガリプロ)」に入校し、寮の同じ部屋に住むことになる。さらにジャガーはガリプロに「ふえ科」を作り、講師に就任。ギタリストを志していたピヨ彦もなぜか「ふえ科」に入ることになってしまう。

のちに「ふえ科」に入ったアイドル志望の白川高菜(しらかわ たかな)、ヒップホップを愛する忍者の浜渡浩満(はまわたり ひろみつ、通称:ハマー)などのキャラクターの個性がぶつかり合い、そんな彼らの日常がシュールに描かれる。

『ピューと吹く!ジャガー』では、誰にでもありそうな黒歴史や痛い部分をえぐるような描写がとくに秀逸であり、また、それを笑いに昇華させるのがうまいと思う。

特に、私が大好きなキャラ「ハマー」に関して言えば、ナルシストで変態で卑怯でヘタレで不良に弱くて語尾が「ござるYO!」というよくばりセットの持ち主だ。

可愛い女性には執拗に変態的なアプローチをかけてことごとく失敗し、子ども(しかもロボット)にもナメられ、ふえ科のメンバーからも「クズ」と罵倒され、蔑まれているほどの強烈なキャラクターである。

敏腕プロデューサーに作ってもらった「なんかのさなぎ」というCDが大ヒットして調子に乗るハマー。「自分より格下」だと判断した相手には途端にナメてかかるハマー。恋敵であるピヨ彦を出し抜こうとするハマー。悪事がバレてジャガーに天誅を下されるハマー。

数多く登場する超個性的なキャラクターたちの中でも、そんなハマーが私は大好きでたまらない。

他にも、ジャガーがクワガタと間違えて拾ってきたロボットの「ハミデント(通称:ハミィ)」(足元から何かがはみ出していたことから命名)や、なぜかジャガーに心酔してしまい足を踏み外しまくるビジュアル系ロックバンドの「ポギー」、ピヨ彦の父でふえ職人の「ハメ字郎」、敏腕音楽プロデューサーの「つん子」など、ツッコミどころ満載のキャラクターが次々と登場する。

『ピューと吹く!ジャガー』がすごいのは、1巻から最終巻の20巻まで、中だるみすることもなく、ずっと新鮮な気持ちで笑わせてくれることだ。新しいキャラクターが出てきたり、登場人物同士の関係性がどんどん変わって行ったり……。この作品がここまで人気を博したのは、個性豊かなキャラクターたちや、彼らが巻き起こすストーリーが唯一無二のおもしろさだったからではないだろうか。

うすた京介先生によるギャグ漫画の「愛され力」

『ピューと吹く!ジャガー』は2000年から2010年にかけて『週刊少年ジャンプ』にて連載されていた。全20巻で累計発行部数は850万部を超え、アニメや実写化されるなど驚異的な人気を誇る作品だ。

2000年〜2010年というと筆者が10代だった期間とほぼ一致するが、周りの友人たちはほとんどがこの作品を読んでいたし、何より「みんなに愛されている作品」というイメージが強い。

作者のうすた京介先生と言えば、1995年から1997年に連載された『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』も名作で、今でも熱狂的なファンが存在する。

連載開始からすでに18年経つが、今読み返してもこの作品のギャグに「古さ」は全くないし、これからも古くなることはきっとないだろう。

ギャグ漫画が好きで『ピューと吹く!ジャガー』をまだ読んだことがない人がもしいるならば、絶対に読んでみてほしい。

ピューと吹く!ジャガー モノクロ版/うすた京介 集英社