江戸時代の性風俗がよくわかる『浮世艶草紙』にドキドキ

レビュー

主に江戸時代を中心に描かれた、性風俗の絵画、春画。
 
2015年に東京で、2016年には京都で開催された「春画展」は、性を取り扱う展覧会ながら大盛況だった。東京会場では20万人を超える入場者数を突破したそうだ。
 
なんだかんだ言って、みんなやっぱり性のことには興味津々なのである。たった150年前でありながら、性の価値観が驚くほど違っていた江戸時代。そのさまざまなエロスに思いを馳せた人は多いはず。
 
そんな「江戸のエロが知りたい!」という欲望を存分に叶えてくれるの漫画が『浮世艶草紙』なのだ。
 

浮世艶草子
©八月薫/リイド社
 

世継ぎを産むため、姫様は初夜の練習!

 
『浮世艶草紙』は、江戸時代の性に関するさまざまな風俗をテーマにした1話読み切り型の短編集。武家、大奥、商人、町人、隠密……などなど、職業や身分も幅広いキャラクターが登場する。
 
たとえば、嫁入り前の武家の姫様。結婚すると男の子の世継ぎを生まなければいけない。しかし、姫様はまだ男の身体を知らない乙女。いざその時がきても、アタフタするばかりだと殿の気が削がれてしまう。
 

そのために……なんと、ばあやの手ほどきで、女中と初夜の練習をするのである。

 
春画を教本に行為のなんたるかを学ぶ姫。なんでも良家では性教育の教本として、春画が嫁入り道具になっていたのだとか。
 

 
また、実践練習時のばあやのアドバイスが実用的すぎる。殿方が乗っかってきたらこっそり局部に唾をつけろ、巻き込むと痛いので毛をあらかじめ短く切っておけ……。
 
生々しくて思わず頭を抱えてしまいそうな助言の数々!しかしこれもまた世継ぎを産むための武家の御息女の勤めでございまするぞ。姫様あっぱれ。
 

 
果たして姫は夫婦和合の極意を知り、その日を迎える事ができるのか……。

若夫婦の行為を年増が側でサポート!?

 
世継ぎが必須なのは武家にかぎったことではない。大きなお店にも世継ぎは必須だ。さて、とある呉服店の若夫婦。妻が嫁いできたはいいものの、どうにも最近よそよそしい。
 

 
心配した父が理由を尋ねると、初夜がうまくいかず、双方が気まずいまま解決策を見出せないでいるようで……。初夜ができねば子どももできぬ。
 
父親が呼び寄せたのは、「介添女」と称する熟女だった。
 
若夫婦の間で性行為がうまくいかない時、江戸時代での裕福な商家では、なんとなんと「介添女」なる年増を呼んで、閨でのあれこれを現場でサポートさせていたそうな。
介添女、わかりやすく例えると「性技術の家庭教師」。
 

 
妻の目の前で一度、旦那とコトに及び、そのやり方を妻や旦那に「見て習え」させるのだ。
 

 
「女子の身体を触るときは桃の身を撫でるように、煮た黒豆を摘むように」と具体的でスパルタめな介添女。プレイの一環ならまだしも、どんなワークショップやねん!
 
……とはいえそこは価値観の違う江戸の頃。実際この「介添女」は、井原西鶴の『好色一代女』にもしっかり記述が残っているらしいというから、江戸時代には特殊な専門職が多くいたのだなと実感させられる。
 

江戸時代のエロトリビアにやたらと詳しくなれる

 
きちんとしたシナリオライターがいて、当時の文献などにも言及されているこの作品、読めば「へええ〜」とか「ほおお〜」とか、思わず唸ってしまうようなエロトリビアに満ち溢れている。
 
たとえば、大奥など身分の高い女性が自慰に使っていたという張型、庶民は大根や人参をアレでナニな形に削って使っていたとか。
 

 
しかも、そのままだと冷たいので、紙で包んで火鉢に入れ、人肌に温めてから使うのだ、とウンチクを傾ける作中のおじさん。
 
また、西日本を中心に近代まで続いていたのは夜這いの文化。夜、人目を忍んで女の家に上り込む時、扉を水で濡らしておけば静かに開けられるとか。
 

 
夜這いの作法は地域性があって、人妻はNGだけど後家はOKな場合があるとか。
 
みなさ〜ん!ここ、日本史のテストにでませ〜〜〜〜ん!
 
でも、でも、なんでしょう、この蠱惑的でロマンに満ち溢れたムダ知識の数々。ご先祖さまたちはこんなに奔放だったのか、なんて考えるうちに、永久に失われてしまった価値観やライフスタイルがどこか懐かしく、愛おしくさえなってくる。
 
いやしかし、それにしても、この漫画を読む以外にこんなこと知る人生ある?
 

エロ要素は少なめ、歴史物ととしても楽しめる漫画

 
1話完結のオチとしてだいたい情事が入ってくるのだが、エロ要素は少なくあっさり読めるのがいい(とはいえ八月薫先生が描く体はすごく生っぽくて美しいのでそれは必見)。
 
同心(警察業務にあたった下級役人)が町で起こる事件を解決するサスペンス的なお話や、
 

 
大阪の丁稚奉公たちが、踏み倒された着物代を取り返しに遊女に勝負を仕掛けるお話など、
 

 
性風俗を通じて、“性”だけではない、当時の風俗がよくわかる歴史物としても楽しめる漫画。ぜひ当時の人々はどんなふうに生き、どのように触れ合っていたのか、その実態を覗いてみてはどうだろうか。
 
 
浮世艶草子/八月薫 リイド社