謎解き×ホラーの名作『ゴーストハント』は怖過ぎて少女漫画ってレベルじゃない

レビュー

筆者は結構ホラー好きなので、はじめて買った漫画は『本当にあった怖い話』みたいなやつだったし、貞子が出てくる「リング」シリーズも全部見た。昔、とあるホラー映画を1人で観に行ったら私以外が全員カップルで心が死んだことがある。

さて、さまざまなジャンルのホラー作品に触れてきたなか、「少女漫画で『いちばん怖い作品は?』」と聞かれたら、即答でこの作品を答える。

いなだ詩穂先生の『ゴーストハント』だ。

ゴーストハント
©小野不由美・いなだ詩穂/講談社

「十二国記」シリーズや「屍鬼」が人気の小説家・小野不由美先生のティーン向け小説シリーズ、そのコミカライズである。

ティーン向けとはいえ、当時の読者を恐怖のどん底に落としたという不朽の名作、漫画になってもやっぱり怖面白いのである。

女子高生が幽霊退治のお手伝い!?

とある高校に通う主人公の真衣。

ある日、放課後の視聴覚室で友人たちと怪談話に興じていた。

話をいくつかするなかで出てきたのは、旧校舎の話。

通っている高校には、半分壊れたまま解体されずに残る旧校舎がある。その旧校舎は、幽霊のたたりが起きるので、解体することができないのだとか。

恐怖に騒いでいたその時、見知らぬ青年が真衣たちの前に現れる。
彼の名は渋谷。愛称は「ナル」。怪談好きだと自称する彼は、その甘いマスクで真衣の友達たちを虜にし、生徒たちから旧校舎にまつわる怪談を収集していたのだった。

学校の生徒らしからぬ風貌、優しい表情をしてるふりして目が笑ってない……。突然やってきた怪しいイケメンに、警戒心を強くする真衣。

怪しい少年の正体はなんと、旧校舎取り壊しを進めたい学校が秘密裏に呼び寄せた、「渋谷サイキック・リサーチ」なる幽霊退治屋だったのだ。

真衣はとあるトラブルをきっかけに、「渋谷サイキック・リサーチ(以下:「SPR」)」の仕事を手伝わされる羽目になってしまう……。

怪奇現象をロジカルに解き明かしていく

幽霊退治といいながら、大仰な機械に面食らう真衣。

「SPR」の特徴は、怪奇現象の原因を幽霊と決めつけないことにある。いや、調査段階の初期は懐疑的であると言っていいかもしれない。

怪奇現象をすべて「幽霊の仕業だ!」ととらえてしまうと、「霊なんていない」VS「いや霊はいる」という対立構造が生まれがちになる。みなさんも過去一度くらいは、そういう論争に身を投じたことがあるかもしれない。

たとえば、家のなかでポルターガイストが起こるとしよう。彼らはまず、地盤沈下や木材の膨張・収縮による「家鳴り」などの自然現象を疑う。

地盤の強さや地下水脈の有無などを調査し、自然現象かどうかを判断する。その判断から漏れた事象をさらに、サイキック(超能力)を持つ人間が起こすのか、人間でないなにか(霊)が起こすのかを判別していくのだ。

最新鋭の機械を駆使するだけでなく、土地の持つ歴史やそこに住まう人々の人間関係まで調べる。そんなロジカルで徹底的な調査によって恐怖の正体が露わになっていく……。

坊主・巫女・神父・霊媒師……ごちゃまぜのチーム戦

科学的な側面から心霊現象にアプローチするナル。話が進むごとに、周囲にはアクの強い霊能力者たちが集まり、チームの様相を呈してくる。

通称「ぼーさん」と呼ばれる、もと高野山の坊主・滝川や、ケバいけれど一応れっきとした巫女である綾子。

オーストラリア出身のエクソシストであるジョンに、口寄せ(霊を身体におろす)を得意とする霊媒師の真砂子。

真言を武器のように飛ばして霊に物理攻撃を仕掛けたり、

祝詞(のりと)によって場を清めたり、

持ち前の知見を擦り合わせてサイキック(念動力)について討論したり。

性格はもちろん、得意とする霊へのアプローチ方法や、専門領域がバラバラの彼らが協力しあって怪奇現象を解決していくさまも読んでいて非常にワクワクする。

ちなみにタダの高校生だと思われていた真衣も、夢で怪奇現象を予測するなど、メンバーとして頭角を表していく。

幽霊の登場シーンが怖い

全10巻である『ゴーストハント』、10巻のなかで7つの心霊調査が描かれているのだが、3巻あたりからホラーシーンの恐ろしさレベルが格段に上がる。

幽霊の描写や幽霊に取り憑かれた人の描写の生々しさはもちろん、人が恨みをもって人を呪うなど「リアルに人が怖い」という事例まで、全方向から恐怖体験を読者に与えてくるので、

わりとガチめに夜に読まないほうがいいと思います!

「SPR」の真の目的とは

各所で心霊現象を解決していく「SPR」だが、じつは極秘裏に進められている「ある目的」があった。それが実際になんなのかは、7つの心霊調査を通していくうちに少しずつ明らかになっていく。

科学技術や知識で怪奇現象を解決するといった点も含め、単純なホラーだけではない、サスペンス要素も諸処に散りばめられた不朽の名作『ゴーストハント』。

酷暑のこの夏、身体の底からゾッとしたかったら、ぜひ手に取ってみてほしい。

ゴーストハント/小野不由美・いなだ詩穂 講談社