『映像研には手を出すな!』と『アニメタ!』が描くアニメ制作の理想と現実

まとめ

「1日中何も考えずにずっとアニメ視聴してぇ…!」
 
部屋の掃除とか、公共料金の支払いとか、あと仕事とか仕事とか仕事とか!
 
やらないといけないことが多いときに、どうしてもアニメが観たくなる生き物なのです我々は!
 
そんな僕たちの現実逃避先である「アニメの世界」をつくる人たちの物語が『映像研には手を出すな!』と『アニメタ!』だ。

映像研には手を出すな!
©大童澄瞳/小学館
アニメタ!
©Yaso Hanamura/講談社
 
およそ同時代に描かれた漫画で、両者ともにアニメ制作者を主人公に置く。
 
しかし、両者を比較してみたときに、その描かれる世界は極めて対照的。
 
キーワードは「理想」と「現実」だ。
 
それもそのはず。
 
『映像研には手を出すな!』が高校での映像研究同好会の話に対し、『アニメタ!』はプロのアニメ制作会社での話なのだ。
 
さらにいえば、『映像研には手を出すな!』の作者は個人でのアニメ制作経験であるのに対し、『アニメタ!』の作者は元プロのアニメーター。
 
これらの違いが、同じアニメ制作漫画といっても、全く別の切り口を生み出しているのだ。
 
今回は、対照的な上記2作品を取り上げたいと思う。
 

『映像研には手を出すな!』

 

映像研には手を出すな!
©大童澄瞳/小学館
 

 
『映像研には手を出すな!』は、アニメの設定を考えるのが大好きな浅草みどりと、カリスマ読者モでアニメーター志望の水崎ツバメと、金儲けが大好きな金森さやかの3人が、「最強の世界(映像)」をつくるために奮闘する物語。
 
描かれるのは、おもちゃ箱をひっくり返したような「創作の世界」だ。
 

 
1コマ目前まで原画を描いていたはずの彼女たちが、次のコマから突如、架空の世界の中へ。
 
あるはずもないヘルメット。あるはずもない棒。あるはずもない街。
 
だけど、最強の世界をつくろうとする彼女たちの目にはそれが見えている。
 

 
誰か一人のアイデアに呼応して、「だったら、こうした方がいいんじゃない?」という具合に、だんだんと世界が積み重なっていく感覚。
 
まるで、クリエイターの頭の中をすべて映像で見せられているかのようだ。
 
こうした現実と想像の世界をリンクさせる描写を見て思い出すのは、子供の頃によくやった妄想ごっこだ。
 
「こんなロボットがいたらかっこいいだろうな」

「こんなお姫様になってみたい」
 
本作品を読んでいると、自由に夢の世界をイメージできていたあの頃を思い出す。
 

 
『映像研には手を出すな!』が発明したのは、普通の漫画では、扉絵や巻末の付録に載せられることの多い「設定資料」を物語の中に組み込んだことだ。
 
タブーだろうが、ナンセンスだろうが、自分が描きたいものを描く。
 
そんな作者の思いまで伝わってくる新しい仕組みだ。
 

 
「『映像研』を読んだら何かを作りたくなる!」SNSではそんなコメントをよく見受けるが、たしかにそうであった。
 
「創作の世界は自由で楽しい!」と叫んで回るような、まさにアニメーションの「理想」を切り取った作品だ。
 

『アニメタ!』

 

アニメタ!
©Yaso Hanamura/講談社
 

 
『アニメタ!』は、アニメ業界を舞台に、その業界内の一セクションである「アニメーター」という職に就いた真田幸を主人公にした物語だ。
 
『映像研には手を出すな!』とは対照的に、描かれるのは徹底的な「現実」。
 

 
新人のアニメーターとして一人前になるまでにひたすら続くダメ出し。
 
たった一本の線をまっすぐ引くまでに、絶え間ない訓練が求められる。
 

 
さらに、アニメーターは仕上げた原画の数で給料が決まる。
 
この主人公の場合、「5日で210円」「休みなしで1ヶ月68000円」であることが明かされた。
 
そう、これがプロのアニメ制作の現実なのだ。
 
一人前のプロになるまでに相当の努力が必要でかつ、生き抜くだけの保証が用意されていない。
 
夢だけでは、生きていけない。
 
制作の現場に求められるのは、才能。
 
そして、命をかける覚悟だ。
 

 
社会問題ともなっている過酷すぎるアニメ制作の現場。
 
嘘偽りのない文字通りの「命を捧げる覚悟」が求められる現場の緊張感がこの作品からは伝わってくる。
 
そんな現実の壁を、主人公はアニメへの愛で乗り越えて行く。
 
本作が「スポコン・アニメーター物語」と称されるのはそのためだ。
 

 
テープを擦り切らすほど観たアニメに、自分の人生を救ってくれたアニメに、感謝を伝えたい。
 

 
くじけそうな時に、なんども初心に立ち戻りながら、現実に立ち向かおうとするアニメーターの物語だ。
 
このように、『映像研には手を出すな!』とは、対照的な地を這う現実を描いている本作。
 
しかし、共通点がある。それは「創作」の喜びを描いているところだ。
 

 

 
どんなに過酷な現実でも、描いていて「楽しい」と思うその気持ちこそが創作の原点なのである。
 
諦めずに努力をし、徐々に努力が花を開き、積み上げた悔しさ以上の喜びとなる、その過程を主人公とともに味わいたい人におすすめの作品だ。
 
創作の酸いも甘いも味わえる両作品、創作意欲を刺激されたい方はぜひ読んで見てほしい。
 
 
映像研には手を出すな!/大童澄瞳 小学館
アニメタ!/花村ヤソ 講談社