甘くほろ苦いスイーツBL♡深夜に読みたいセツナ系『キタハラリイ』作品3選

まとめ

秋です。こちら沖縄でもようやく暑さが落ち着き、なんだかロマンティックなBLが読みたくなってきました。何を読もうか、真っ先に浮かんだのがキタハラリイ先生の作品です。美しく儚いセツナ系BLの名手として注目を集める先生の漫画は、言葉の羅列だけですでに泣けます。作中に散りばめられたドラマティックなセリフを取り上げながら、まるで一本の映画を見ているような充足感たっぷりの世界に浸ってください♡。

純情年下ワンコ青年×激動の元ゲイビ(ゲイビデオ) 男優『はきだめと鶴』

はきだめと鶴【電子限定特典付き】
©キタハラリイ/竹書房

むさくるしい所やつまらない所に似合わないほど優れたものや美しい人がいることのたとえ、掃き溜めに鶴。それとかけた本作は、表紙を飾る美中年・澄川螢の堕ち切った人生とその現実にもがきながらも懸命に生きるピュアな生き様が心に残る作品です。

はじまりは都会の片隅にある映画館。そこでアルバイトとして働く澄川螢35歳に一目ぼれした年下の会社員・岡崎準太は、螢のことを「綺麗だ」と言って憚らず、思い切って自分の気持ちを告白します。

「今まで見て来た中で一番綺麗な人」と若者らしいまっすぐな言葉を伝える準太。しかし螢が口にしたのは、ネコ専門の元ゲイビ男優という予想もしない過去でした。それでも自分に興味があるなら抱いてみてと迫る螢に抗えず、そのまま体を重ねてしまう二人。その時、胸中を吐露した螢のつぶやきがさらなる秘密を予感させ、物語にぐんぐん引き込まれてしまいます。それがこちら。

「はやく幻滅して 軽蔑して 名前負けもいいとこだって嗤ってみせてーー」

体だけの関係と割り切りながらも、「この人は違うかもしれない、この人なら…」と救いを求めているかのような、人生の希望を未だに捨てきれない大人の本音が垣間見れるこのセリフ。後に螢がヤクザの愛人であった事実や、借金返済のためにゲイビ男優にならざるを得なかった状況が明かされるわけですが、その痛々しい過去が明かされるのですが、そこ にキタハラリイ先生の詩的な言葉が合わさり、より一層重みを感じさせるものとなっています。

好きという気持ちだけで乗り切れるほど単純ではない大人の恋は、螢の年齢に近い人ほど切なくなるかもしれません(自分はドンピシャでした…!)が、でも安心してください。螢の過去をすべて知った上で出した準太の答えがすべてを救ってくれるんですよ。セリフもばっちりハマっていて。ラストのシーン、螢の古いアパートにはささやかだけれど確かな希望があって、何度読み返してもじんわりしてしまう感動作です。

体から始まる甘酸っぱい恋の話『ジェラテリアスーパーノヴァ』

ジェラテリアスーパーノヴァ
©キタハラリイ/竹書房

続いては、甘くて苦くて濃厚で、味覚にも似た様々な感情を詰め込んだ胸キュンラブストーリー。大学生の隠れゲイ・里谷は適当に作ったハンドルネームsatoを名乗り、出会い系で知り合った男kioと衝動的なセックスをする仲。

一度だけの気まぐれだったはずなのに、春、夏といつしか季節は過ぎていき、里谷は本名すら知らないkioに惹かれていく自分に戸惑います。しかしすぐさま「好き!」、「付き合って!」と言えないのが悲しきセフレの定めかな。先ほどの『はきだめと鶴』もこちらの二人と同じく体から始まりましたが、不純のレベルが違いすぎます。自身の性的指向を認識した上で初めて好きになった人なのに、本心を隠したままあくまでセフレとして行為に及ぶ里谷の姿がいじらしく、読者の自分はモヤモヤしたりキュンキュンしたりと大忙しでした。

深みにはまる前に終わりにしなければと焦る里谷に対して、kioの反応はというと、一読したかぎりではちょっと分かりづらい印象です。普段は物静かで飄々とした空気感の年上イケメン。だけどエッチは激しめで、結構な経験を積んでいる恋愛上級者。そんな余裕たっぷりの男が、まさか最後の最後であんなに素敵な告白を披露してくれるなんて誰が予想できたでしょうか。

「せめて、始めさせてよ」

体から始まった関係だからこそ、あえて駆け引きなしのまっすぐな言葉で思いを伝えたkio。そのセリフは、タイトルでもある行きつけの店「ジェラテリアスーパーノヴァ」のジェラートのように甘酸っぱくて爽やかで、人口甘味料不使用の特別な味わいに感じました。

シリーズ2作目では、恋人同士となった二人のさらに甘い、むしろ甘さ一択となった日々が待っているのでお楽しみに。里谷の幸せな様子はもちろんですが、里谷を思うkioの深い愛情にも注目です。

ピュアな気持ちを取り戻せる幻想譚『花咲みの魔女に告ぐ』

花咲みの魔女に告ぐ 【電子限定特典付き】
©キタハラリイ/竹書房

最後は、繊細で美しいキタハラリイ先生の世界観にファンタジー色が抜群にマッチした作品。魔女を共通テーマに花、記憶、海のキーワードを盛り込んだトリオロジーです。高校生、ギャングと男娼、ダイバーなど…さまざまな人物が登場する本作は別々の時間と距離を超えて綴られながら、まるまる一冊読んだ後には不思議な統一感と異次元に迷い込んだような気分を味わえます。

なかでも個人的に好きなのは高校生の結と陵の淡い恋心を描いた話。幼馴染の二人はどこにでもいるごく普通の高校生だったのに、結の祖母が亡くなったことで事態は急変。実は結の祖母は魔女であり、なぜか彼はその血を受け継いでしまいます。

髪の色が金髪に変わり、不思議な力を発現させる結に戸惑う陵。それを境に二人の仲もなんとなくギクシャクし始め、陵は結に対する思いはきっと魔法のせいなんだと思い込むものの…

一番力のある魔法って”言葉”なんだと思う。誰にとってもね

物語の中盤で結が口にしたこのセリフには、人と違う能力に翻弄されながらも自分らしく生きようとする結の強さを感じさせつつ、大切な人や好きな人に掛けてもらう言葉の大きさを改めて教えてくれます。言葉は言霊といいますもんね。、ネガティブ発言や愚痴はアカンよね…

皆様もイライラしたり、心まで疲れ切っている時にこそぜひ読んでみてください。キタハラリイ先生の描き出す幻想的な世界と言葉の数々にピュアな気持ちを取り戻せるはずですよ。

まとめ

思わず二、三度復唱したくなるセリフ満載のキタハラリイ作品。個人的にはバックに澤野弘之さんとか林ゆうきさんの曲を流しながら読むのが最高に贅沢だと思っています。静かな秋の夜、ご褒美スイーツ感覚で切なくも温かい恋の物語にじっくり癒されちゃいましょう♡

はきだめと鶴【電子限定特典付き】/キタハラリイ 竹書房
ジェラテリアスーパーノヴァ/キタハラリイ 竹書房
花咲みの魔女に告ぐ 【電子限定特典付き】/キタハラリイ 竹書房