能力バトル漫画の究極進化系『出会って5秒でバトル』

レビュー

出会って5秒でバトル
©はらわたさいぞう/みやこかしわ/小学館
 
いつからだろう、「能力バトル漫画」は少年漫画の王道となっていた。
 
各人の個性に照らして付与された特殊能力。
制約や敵との相性で大きく変わる戦局。
騙し、謀りあう、高度な読み合い合戦。
 
能力バトル漫画はいつ読んでもやっぱり面白い!
 
今回紹介したいのは、そんな能力バトル漫画の真打『出会って5秒でバトル』だ。
 
タイトルからして、どこかパロディーもの、B級漫画の匂いがするかもしれないが、声を大にして言いたい!
 
この漫画は、『ジョジョの奇妙な冒険』や『HUNTER×HUNTER』の遺伝子を受け継いだ、能力バトル漫画の正当後継者だ!
 
いわば、能力バトル漫画好きのために描かれた「能力バトル漫画の究極進化系」。
 
そんな『出会って5秒でバトル』の凄さを紹介したい。
 

バトルまでの導線を限りなく削ぎ落とす

 
『出会って5秒でバトル』は一言でいえば、命をかけてプレイヤー同士が戦い合う「デスゲーム」ものの漫画。
 
物語は、とあるゲームが開かれている会場に、登場人物たちが巻き込まれていく場面から始まっていく。
 
本作品の特徴の一つが、そのストーリー展開の速さである。
 

 
1巻の第1話が始まり、わずか12ページで主人公は敵に遭遇。
そしてその後……。
 

 
敵に睨みつけられるや否や、唐突に始まる謎のカウントダウン。
 
コマが進むたびに、カウントダウンは進んでいく。
 

 
いやいや、「BATTLE START!!」やあらへん。
 
なぜバトルが起こっているのか。なぜこの怪人は主人公を狙ってきているのか。、
この漫画は一切の説明を省く。
 
これが『出会って5秒でバトル』のタイトルの由縁である。
 
兎にも角にもストーリ展開が速い、速すぎるのだ。
 
こうした「話が始まってから5秒でバトルが開始するフォーマット」に対して、
「いくら何でも削ぎ落としすぎぃ!」と思う方もいるかもしれない。
 
しかし、能力バトル好きからしたら、ここまで「話が速い」システムの素晴らしさといったらこれ以上のものはない。
 
物語の本筋・人間ドラマ・バトル内容の3種類が能力バトル漫画の主な構成要素なのだとしたら、本作は「バトル内容」に全てその多くの描写が割り振られている。振り切っている。
 
バトルまでの導線を限りなく削ぎ落とし、
バトルだけを楽しみたい人に、最速でバトルをお届けする仕組みなのだ。
まさに、能力バトル漫画の究極進化系。
 

バトルの飲み込みが異常なほどに早い主人公

 
加えて、本作で魅力的なのは主人公だ。
 

 
与えられた状況への飲み込みが、異常なまでに早い。
 
普通、日常生活の延長戦で、突然5秒で怪人に襲われるなんて場面に遭遇したらたら、心が惑うにちがいないだろう。
 
「あいつは何なんだ」
 
「なんであいつは俺を襲ってくるのか」
 
こんな疑問が沸く以前に、リアクションだけで5秒間を費やすのが普通だ。
 
極度のビビリの僕のような人間の場合、洗濯中に蜂が目の前に現れただけで、「をcxkクィhcおwdにxqwjkぃwfひ!!??」という声にならない叫びを漏らしてしまう。
 
ビビリではない人でも、状況を飲み込むだけで精一杯なはず。しかし、
 

 「敗北条件は捕まる事 逃げ切れば俺の勝ち」

(引用元1巻21ページ1コマ目2コマ目)

 
主人公のこのセリフである。
 
勝利条件と敗北条件の冷静な分析。
バトルの受け入れ速度が尋常じゃなく早い。
 
この漫画は非日常を登場人物に体験させて、そのリアクションを楽しむだけのコンテンツではない。
 
能力バトル漫画好きに向けられた、能力バトル漫画の究極進化系なのだ!
 

能力バトル漫画好きが思わず唸る、主人公の能力とは

 
能力バトル漫画の場合、物語の鍵を握るのは、ほぼ主人公の能力次第と言える。
 
『ONE PIECE』なら身体をゴムに変える能力、
 
『HUNTER×HUNTER』なら身体機能を強化する能力、
 
『うえきの法則』ならゴミを木に変える能力。
 
僕が考えるに、主人公の能力に求められるのは、3つ。
 
一つ、いかなる相手にも見せ場を作りながら戦うことのできる「汎用性」
 
二つ、工夫次第では、いかようにも能力に幅を持たせることのできる「カスタマイズ性」。三つ、強すぎず、弱すぎない「バランス性」であると僕は考える。
 
「主人公にどの能力を持たせるか?」という問題は、漫画家および編集者からしたら、一番の悩みどころなのではないかと思われる。
 
では、一体、能力バトルに特化した本作品の主人公の能力とは?
 

 

 「相手があなたの能力だと思った能力」

引用元:1巻94ページ95ページ

 
「なるほど!!!この手があったか!!!!」
と思わず唸ってしまうほどに、考え抜かれた能力だ。
 
つまり、相手が自分の能力を「筋肉を増強させる能力」だと思えば、自分の能力は「筋肉を増強させる能力」になるということ。
 
戦局や使い方によっては、大きく化けそうなこの能力。
強いられるのは常に心理戦だ。
 

 
実際に主人公はうまく対戦相手の心理状況を察し、「手を大砲にする能力」だとして相手を信じ込ませて戦っている。
 
この主人公の能力の設定から見てみても、この漫画、能力バトル漫画好きに唸らせたいとしか思えない。これまでの能力バトル漫画の歴史を前提に置いた「メタ的な」能力だ。
 

 
また、同時に、大量の文字数が注ぎ込まれて、繰り広げられる高度な心理戦からは、『HUNTER×HUNTER』や『ジョジョの奇妙な冒険』といった、歴代の能力バトル漫画から引き継がれた血脈を感じる。
 
やはりこの漫画、能力バトル漫画の究極進化系である。
もし、タイトルだけで敬遠して、今まで手にとらなかった方は、一度だけ読んでみてほしい。
 
能力バトル漫画好きの方なら、必ず読み出すと止まらない作品のはずだ。
 
 
出会って5秒でバトル/はらわたさいぞう/みやこかしわ 小学館