マッサージの快楽を浴びるマニアック作品『ほぐされ紳士、楺井さん』

レビュー

積み重なる労働時間、満員電車で体力を削がれ、上司にも部下にも気を使い、それでも仕事はキッチリカッチリ結果を出す。

サラリーマンはまさに現代日本のソルジャー。

そんなサラリーマンの荒んだ心に潤いを与え、蓄積された疲労を癒すオアシスがある。
マッサージ屋である。

バッキバキのコリに悩む全ての人が「読んで癒される」漫画をご存知だろうか。
それは『ほぐされ紳士、楺井さん』。

ほぐされ紳士、揉井さん
©渦井/崇志/小学館

完全無欠の男が夜な夜な向かうのは……

主人公の楺井(もみい)さんは、大手家電メーカーの食品事業部に所属する敏腕マネージャー。出張先でも、常にクールでダンディな立ち振る舞い、仕事の話のみならず多方面の深い造詣で取引先の印象も上々。

そんな楺井さん、打ち上げの飲み会には参加せずさらりとホテルへと戻る堅物でもある。

仕事以外に興味のないストイックなおじさん……。

というわけではない。

仕事が終わるや否や、夜の街を駆け抜け向かうところ、それは……。

エッチなお店などではなく!

出張先のご当地マッサージ店!!

そう、完全無欠のスーパーサラリーマンは表向きの顔。実は楺井さんは出張先で出会った行きずりの男(マッサージ師)に疲れを揉みくちゃにされるのが好きな、バリネコおじさんだったのである!

頭がいい楺井さんは、ほぐされる表現がうまい。

若い男に感じちゃったことを見透かされて恥ずかしがる楺井さん。

コリをピンポイントでほぐされ、喘ぐ楺井さん。

そして軋むベッド。

ま〜たマニアックな作品がこの世に爆誕してしまった……。

いや、しかしこの作品……イイ!!

実用的なうんちくとご当地ギャクセンス

読んでいて、楺井さんのマッサージ追体験ができるだけではなく、全国のイケメンマッサージ師のお兄さんたちが、いろんなうんちくを披露してくれる。

筋肉や骨がどう体についているか、ツボの位置やマッサージの方式まで。

腰の筋肉がみぞおちから足の付け根にまで広がっていることを知れる漫画。

さらに作品を盛り上げてくれるのが、楺井さんが行く先々のマッサージ店で飛び出すご当地ギャグ。

札幌の彼は、タラバガニの殻のように硬い楺井さんの背中になまら興奮し、

博多の彼は楺井さんの足をコシのない博多うどんにしたると息巻き、

大阪の彼は楺井さんの堅牢な腰を大阪人が愛する秀吉の居城、大阪城に例えたり。

堅実にコリをほぐしていくマッサージのテクニックと、コリをご当地に絡める強引なギャグとのギャップ、読むと思わずフフッと笑わせてくれる。

読むとマッサージに行きたくなる

ツボに入る指、男性の指が持つ力強さ、ぐぐっと音のなる筋肉……。

緊張に晒される体を無防備に預け、全身でリラックスを享受する楺井さんの表情……。

アアア〜〜〜マッサージ行きてえ〜〜〜〜!!

読めば読むほどマッサージ屋で楺井さんの快楽を追体験したくなるこの作品。

最近、体が凝って凝って〜という現代人に、楺井さんが揉まれることの心地よさ、マッサージの素晴らしさを教えてくれるだろう。

……かくいう私も、この原稿が上がったらマッサージに行ってきます!

ほぐされ紳士、揉井さん/渦井 崇志 小学館