可愛いだけじゃない!? 動物好きの方にこそおすすめしたい漫画3選

まとめ

 ネコや犬って、どうしてあんなに可愛いんでしょうね。
 私ごとで恐縮ですが、我が家にはチックルちゃんという愛猫がいまして、目に入れても痛くないのですが、先日、そんな私がネコアレルギーであることが判明しました。

 心からの愛と、体からの拒絶反応。
なんというジレンマ。愛猫は私の顔の前で寝るのですが、なんでも、猫のフケが喘息を引き起こすらしいのです。
なんと苦しいアンビバレンツなのでしょう。
愛は障害が大きいほど燃え上がるといいますが、それは動物に対しても同じなのだということを、身をもって実感した出来事でした。

しかし、そもそも「動物を愛する」ということ自体、人間側から見た一方的な自己満足でしかないともいえるわけですね。
動物と人間とは、「言葉」が通じないのですから。
だとしたら、「人間と動物の正しい付き合い方」という言葉自体も矛盾に満ちた、答えの出ない言葉なのかもしれません。

ということで、今回は「可愛い!」だけじゃない、「動物」と「人間」との付き合い方を考えさせてくれる漫画を3作、紹介したいと思います。

しっぽの声
©夏緑/ちくやまきよし/杉本彩/小学館

『しっぽの声』は、現代日本における「ペット」の実情の「闇」を描いた作品。
現在、「ビッグコミックオリジナル」で連載中です。
 繁華街の「ペットショップ」に並ぶ小さな子犬や子猫たち……狭いケージの中で飼い主を待つ彼らが、「どうやって生まれてきたか」、そして「もし売れ残ったらどうなるのか」……。
 飼い主とはぐれ、あるいは育てられなくなって捨てられ、あるいは生まれたばかりで……保健所に収容された犬や猫たちが、どのように「処分」されていくのか……。 
 主人公は、アニマルシェルター(民間の動物保護団体)の所長を務める天原士狼(あまはら・しろう)と、アメリカ帰りのエリート獣医師・獅子神太一(ししがみ・たいち)は、動物好きならできれば「見たくない」「知りたくなかった」、ペット業界の闇と直面し、対決していきます。

 無責任な溺愛が生み出す「多頭崩壊」や「飼育放棄」、動物を金としかみない「ペット工場」の悪徳繁殖業者の元で生産されていく血統書付きの犬や猫、今この瞬間も「殺処分」を待つ動物たち……。
空前のペットブームの影で、身勝手な人間の欲望やエゴイズムのために「生まれさせられ」「生かされ」「殺されていく」動物たちの「声なき声」を描いていきます。
自ら、動物愛護団体を運営する女優・杉本彩さんの協力のもと、ペットの現実を描き出します。
ペットを飼いたいと思っている人、特にペットを「買いたい」と思っている人には、ぜひお読みいただきたい漫画です。

しかし! この『しっぽの声』という作品ですが、
上の文章を読んだだけで「もうダメ! ちょっと刺激が強すぎる」「テーマが重すぎる」という方もいらっしゃるかと思います。
 『しっぽの声』は、動物と人間をめぐる世界の「闇」を描いている物語ですので、動物が好きな人であればあるほど、読むのに「心の準備」が必要な作品かもしれません。
 
そこで、そういう方には先に、同じ作者が『しっぽの声』の前に描いていた『獣医ドリトル』をお読みになることを、おすすめします。

獣医ドリトル
©作・夏緑/画・ちくやまきよし/小学館

この『獣医ドリトル』は「ビッグコミック」に連載され、小栗旬の主演でテレビドラマ化もされましたので、ご存知の方も多いかもしれません。
 主人公の鳥取健一こと「ドリトル」は、腕はいいが、お金にうるさい獣医師。
彼は「獣医はビジネスだ」が口癖で、次々と持ち込まれてくる病気や怪我の動物の飼い主に対して、驚くほど高額な治療費を請求します。
 しかし、その多くは、人間の自分勝手な理由で、動物を病気や怪我にしてしまった場合であり、自分のしたことの大きさを自覚させるための金額設定でもあるのです。
 ドリトルは、病気や怪我で苦しむ動物を治療し、救っていくと同時に、飼い主である人間の歪んだ考えを直したり、心の傷を癒やしたりもしていくのです。
 なぜ、『しっぽの声』より先にこちらをオススメするかというと、これは獣医ドリトルが動物と同時に、人を救い、導いていく物語であるから。

 先の『しっぽの声』が(今のところ、既刊2巻まででは)ペット業界の現在進行形のどす黒い「闇」を取り扱っているのに対して、この『獣医ドリトル』には、人と動物を救っていく「光」があります。
基本的には短編連作なので、読者にも毎回「救い」があるのです。
『ドリトル』と『しっぽの声』はお話として連続性があるわけではありませんが、『ドリトル』で踏み込めなかった部分を、覚悟を持って描いているともいえ、そういう意味では両作は繋がっているともいえるでしょう。
この2作品は「光」と「闇」として、対になる物語なのではないかとも思えます。
 
 さと、もう一作ですが、ペットと同様に人間と深い関わりを持ってきた「家畜」との関わりを描いた作品として、『銀の匙 Silver Spoon』を紹介します。

銀の匙 Silver Spoon
©荒川弘/小学館

紹介といっても、『鋼の錬金術師』完結後、「週刊少年サンデー」に移籍後第一作として発表され、その内容のギャップとともに話題になり、マンガ大賞2012を受賞した本作ですから、みなさんご存知かと思います。
アニメ化、実写映画化もされ、現在も「週刊少年サンデー」で連載中です。
北海道の大自然の中にある農業高校「大蝦夷農業高校」を舞台に、札幌育ちの優等生である主人公・八軒勇吾が、初めて農業や家畜の世界に触れて、学んでいくという物語。
読者は、主人公の目を通じて、鶏卵や乳牛、豚、肉牛などが、どのようにして農家から消費者の元に届けられるのか、そして「生産性」がなくなったために処分されていく家畜たちの姿を目の当たりにしていくことになります。
ふだん、パック詰めされた精肉をスーパーで買うといった生活をしている読者にとっては、主人公を子豚の時から名前をつけ、可愛がって世話をした豚を食べる「豚丼」(豚の名前)のエピソードは、なかなかに衝撃的なのではないかと想います。

この作品は「ペット」ではない「家畜としての動物」と、「それを食べる人間」との関わり方を考えさせられる作品であることは間違いありませんが、かといって堅苦しい作品ではありません。
農業高校に集う若者たちの学園生活全般をコミカルに描いた青春群像であり、八軒君の成長物語、あるいはラブストーリーとしても読むことができる、エンターテイメント作品です。
さらにこの作品は青年誌ではなく、少年誌で連載された「子どもに読まれることを前提に描かれた作品である」ということの価値も大きいと思います。
願わくば、10年、100年後の子どもたちにも読んでいってほしい作品の一つです。

ちなみに、北海道を舞台に人間と「食べ物」としての「動物」を描いている点などは、同じく北海道を舞台にし、アイヌの食文化を紹介したグルメ漫画として紹介されることもある『ゴールデンカムイ』とも共通しているといえるかもしれません。併せて読めば、文化や時代を越えても共通する、「動物を食べる人間」と「食物としての生命」との向き合い方のヒントになるのではないかと思います。

 言葉の通じない、どんなに愛していても人間とは種も生態も違う動物は、どのように付き合うべきなのか。
それはなかなか答えが出ない問題ですし、答えが出ないからこそ、人間は苦悩しながら動物と付き合い、愛しつづけるのでしょう。
そういう意味では、人間は動物に対して永遠に「片思い」を続けていく運命なのかもしれませんね。

しっぽの声/夏緑 ちくやまきよし 杉本彩 小学館
獣医ドリトル/作・夏緑 画・ちくやまきよし 小学館
銀の匙 Silver Spoon/荒川弘/小学館