もし、同性の親友から恋心を抱かれたら……? 友情と愛情のはざまで揺れるピュアBL『まばたきのあいだ』

レビュー

異性愛者であるわたしにとって、これまでの恋愛対象はいつだって男性。
女性が友達・親友以上の存在になる可能性を考えたことはありませんでした。
 
あの時友人だったあの子が、今仲良くしているこの子が、もし仮に、自分に恋愛感情を抱いていたとしたら。
 
そんなことをふと思ったのは、男性同士の友情と恋愛を描いた『まばたきのあいだ』を読んだことがきっかけでした。

まばたきのあいだ
©須久ねるこ/講談社
 

彼にとって自分は”友達”、でも自分にとって彼は……

 
ヒデとハルの出会いは幼少期。
内向的なヒデにとって、4歳年上のハルは初めての友達でした。
 

 
年は違えど、親友のように仲良しになったふたり。
小学生、中学生、高校生と成長しても、互いの家へ遊びに行くなど親密な友人関係が続きます。
 
ハルにとって、ヒデは大切な友人。
 
しかしヒデにとって、ハルはただの友人ではありませんでした。
 

 
ハルに対して、いつしか恋心を募らせていくようになったヒデ。
自分がゲイかもしれないこと、親友を好きになってしまったことに戸惑いを覚えます。
 
そんな中、ヒデが高校生のとき、親の転勤を機にハルとは離ればなれになってしまいます。
 

 
そして、ふたりが離れてから数年。
ヒデが20歳のときにハルから突然「俺、結婚するわ」とメールが届きます。
 
どこかでハルを忘れられずにいたヒデは、傷心とともにアドレスを変更。
 
こうしてヒデの初恋は幕を閉じた、はずでした。
 

再会、そして再燃する想い

 
それから5年後。25歳となり、会社と家を往復する日々を送るヒデ。
 
そんな彼の前に、ハルとの残酷な再会が訪れます。
 

 
忘れたくて仕方がない、愛しい初恋の人。
この偶然を呪いつつ、ヒデの胸にあふれた感情は「どうしようもなく 嬉しい」でした。
 

 
5年前に結婚したハルは、昨年に妻を亡くして娘と2人暮らしをしていました。
 
思わぬ事態に言葉を失いつつも、淡い期待を持ってしまったヒデ。
 
ハルとアドレスを交換し、進路相談や子育ての手伝いなど口実をつくり、週末にハルの家に通う日々が始まります。
 
ひとりで仕事と子育てをしていたハルは、あくまで「親友」としてヒデを頼ります。
 
しかし、ハルに対するヒデの恋心はどんどん大きくなっていくばかりで……。
 

もし同性の親友からの恋心を知ったら

 
この作品は、恋心を抱くヒデの目線でストーリーが進んでいきます。
 
どんな形であれ、好きな人のそばにいられる嬉しさ。
好きな人が、自分ではない「好きな人」について無邪気に語る姿を見るつらさ。
今でも幸せではあるけど、それでもやっぱり関係を前進させたくなる欲。
 
このヒデの気持ちには、異性愛も同性愛も関係ありません。
 
彼の「叶う可能性がかぎりなく少ない片想い」には、共感や切なさを募らせてしまう人もいるはず。
 
本作の高い画力は、言葉はなくとも表情で、ヒデの気持ちをありありと読者に伝えてくれます。ヒデの迷い、悲しみ、ときには絶望の表情には、胸をズキズキとさせられるはず。
 
では一方で、大好きな親友に恋心を抱かれたハルの気持ちはどうでしょうか。
 

 
妻とヒデ。どちらも自分にとっては、かけがえのない大切な存在です。
 
ヒデとは、ずっと親友として付き合っていきたい。
妻のことは、まだ忘れられない。
たとえ妻のことを抜きにしても、自分は異性愛者、ヒデと「恋人」になることは……。
 
大きな葛藤を抱えて苦しむこのハルの姿にこそ、本作における読み手への問いがつまっている気がします。
 
親友か、恋人か。そして、その関係を続けていくことはできるのか。
それとも、もういっそ離ればなれの他人になってしまうか。
 
ふたりがどんな結論を出すのかは、ぜひ本編をご覧ください。
 
 
まばたきのあいだ/須久ねるこ/講談社