共感多数。男女のリアルな“すれ違い”を描いた『恋のツキ』って知ってる?

レビュー

ここ数年、大物芸能人や政界の人物など、世間を騒がす “不倫”報道が増えましたね。今やどんなマジメそうな人でも、裏で何をしているのか見えない世の中だと感じるばかりです。テレビや雑誌を見て「私なら絶対にそんなことはしない!」なんて思っていたそこのあなた。不倫はダメでも、“浮気”や、“乗り換え”は、アリ派ですか?世間からは悪く見えるけど、自分にとっては純粋な恋だと疑わないものだったら、どうしますか?『恋のツキ』は、そんな恋心と浮気心の狭間でゆれ動く気持ちを描いた作品。たかが漫画とあなどるなかれ。リアルな現実を正面から突き付けてくる痛々しさと、「この気持ち、わかる!」と思わずにはいられない共感性の強さをぜひ味わってみてほしいです。

恋のツキ
©NITTA AKIRA2018/講談社

どんなトキメキも、慣れてしまえば日常に消える

主人公・平ワコは31歳、フリーター。かねてより憧れだった映画館でアルバイトとして働きながら、彼氏と同棲して3年。そろそろいい歳だから、正社員で働かないといけないし、結婚して子供を持たないといけないし、という世間からの“当たり前”な風当たりを感じています。彼氏や友達に合わせて、なんとなく楽な道を進んできた彼女にとって、結婚や幸せはガチャガチャで引く“レア”のようなもの。彼氏への小さな不満も、将来への不安も目をつぶって生きていたとある日、バイト先で運命の出会いを果たします。

顔はタイプ、選んだ映画の好みも同じ、履いているスニーカーも同じ。チケットをもぎった瞬間に触れた手のぬくもりで、ドキドキもした。彼の名は伊古ユメアキ、なんと高校生。その歳の差を感じないほど意気投合した2人は、あるとき一線を超えてしまいます。トキメキが日常に変わってしまった同棲生活の隅で生まれた、新しい刺激。それは恋なのか否かは分からないけれど、ワコは相変わらず自分の好きなように、楽な道を進んでいきます。

そして訪れるXデー。別れからの乗り換え、修復からの結婚、どちらを選ぶ?

伊古くんとの一件があってから、彼氏・ふうくんへの気持ちがだんだんとなくなってきたワコ。思えばふうくんは自己中心的で、帰宅するや否や靴下は脱ぎっぱなしで片づけない、テレビのリモコンを占有するなど、ワコのことを優先して考えてくれません。しかも、会社員としてワコを支えるどころか、フリーターのワコをどこか見下している発言も。「仕事決まった?パートはいいよね」という言葉でワコを悩ませます。ある日、お忍びで伊古くんと会っていたワコの前にふうくんが現れ、ついに関係性に大きな歪みが生まれます。結婚指輪を差しだしたふうくんと、「2人目でもいいから付き合いたい」と言う伊古くん。ワコは……。

付き合って4年、同棲3年。それだけ長い期間を一緒にすごした彼氏とは、別れたい気持ちがあっても、積りに積もった“情”でなかなか離れられないもの。と同時に、ふうくんへのイライラも積りに積もって、限界を迎えているのも事実。そんなイコの気持ちの吐露に対して「何が悪かったの?俺、直すから!」と必死になるふうくんの“わかってなさ”。あらゆる感情がクロスして、すれちがっていく様はとってもリアル。読んでいて辛いのですが、ページをめくる手は止めらない、そんな面白さがあります。最終的にワコが選んだ道とは……それは、読んでみてのお楽しみ。

どう思うかはあなたの価値観次第。恋愛に答えなんて、きっとない。

本作は、誰にも平等に答えをくれる作品ではありません。読み手の価値観や恋愛経験によって、判断が分かれてくるものだと思います。浮気されたことのある人はワコに共感できないと思うし、そうでない人でも、ふうくん派なのか、伊古くん派なのかで分かれてくるところ。
なかには「両方付き合いながら、本命を決める」という意見の人もいるかもしれません。結局のところ、本作のテーマは「恋愛には正解がないということ」だと思っています。正解がないから、正義でもいいし悪でもいい。1人に絞っても、絞らなくてもいい。そのぶん自分は何か辛い思いをするかもしれませんが……あなたは、自分のどんな感情に正直に生きていきたいですか?ぜひ、本作で答え合わせをしましょう。

今年ドラマ化もされ、現在5巻まで発表されている『恋のツキ』。最新5巻ではまた大きな展開があり、ここからワコはどう進んでいくのか、よりいっそう目が離せなくなりました。完結していない今のうちに、5巻まで追いついておくのがおすすめです!

恋のツキ/新田章 講談社