AVデビュー崖っぷちアイドルストーリー『バックステージ!!』ファンは応援したくてお金を払う

レビュー

アイドル激戦の時代。かわいいだけじゃ目立てない。なにかコンセプトや記号性が必要だ。
 
漫画『バックステージ!』に出てくるアイドルの掲げた「個性」は、売れなかったらAVデビュー
 
アイドルが挑む背水の陣は、余りにも過酷だった。

 

バックステージ!
©オクショウ・ニイマルユウ/NSP 2016
 

アイドルは「愛」を「金(ドル)」にする仕事

 
元気っ娘の柊夢乃、気弱な静真由、しっかり者の雨宮楓、ツンデレ娘の松木由加里。4人の所属するアイドルグループ「マイルストーン」は、歌も踊りもビジュアルも正統派。レベルは低くないはずなのだが、さっぱり鳴かず飛ばず。運営母体の社長は借金の話を持ち出し、彼女たちをAVに売り飛ばすことを告げた。
 
彼女たちの夢を諦めきれないマネージャーの井上カスミは抗う。逆にキャッチコピー化したのだ。
 

 
雨宮楓「来年の東京ドームライブを満席にできなかった場合…AVに出演することをここに誓います!!」
 
スキャンダラスな話題は瞬く間に広まった。無名なマイルストーンは、一日にして有名人。これはいけるか!?
 
しかし、次のライブに集まったのは、たった18人だった。「このAV予備軍が」と観客の野次は冷淡だ。
 

熱血よりも、ファン心理

 
この作品は、マイルストーンの熱血物語であると同時に、商品価値としてのアイドルを分析する漫画だ。原作のオクショウが、アイドルバラエティ「AKBINGO!」などの構成作家なだけあって、作中のアイドル論の切り口は生々しい。
 
プロデュースに秀でた三間坂裕介がアドバイザーとして登場してから、彼女たちの活動のあり方は、直球勝負からどんどんひっくり返されていく。
 
たとえば歌やダンス。当然うまいほうがいいが、それは何年もかけて基礎トレーニングを行って積み上げていく技術だ。残り1年しかないマイルストーンは今からやって間に合うのか? 三間坂は言う。ヘタでいい
 

 
一生懸命な顔を見せる、ドヤ顔パフォーマンスをしてはいけない、という三間坂の「ドヤ顔理論」。ミュージシャンではなくアイドルにファンが求めているのは、頑張っている女の子たちの姿。「応援される」のがアイドルの仕事だ。
 
となると、歌もダンスもルックスも「そこそこ」な彼女たちが、AV女優という背水の陣で苦悩している姿は、使い方次第では強力な武器になる。
 
1巻後半で、三間坂は無料ライブイベントを実施。同時開催で「AVにメンバーが出た歳に男優として出演できる券」ガチャが行われた。一回1,000円。
 
ライブは無料なので、スキャンダルに興味本位の客がわんさかやってきた。遊び気分で、アイドルとヤれるならとガチャを回す。
 

 
トップアイドルになりAVデビューしなければ意味のないガチャだが、あまりにもえげつない。
でも考えてほしい。もし自分が好きなアイドルがそんな下卑た窮地に立たされていたら、「ヤりたい」じゃなくて「助けたい」と思うんじゃない?
 
この後マイルストーンファンの男性が取った行動が、めちゃくちゃかっこいいので、ぜひ見てほしい。
 
一生懸命頑張っている子たちがいる。彼女たちの姿に心動かされ、応援したいと考える。最も形になる行為は、ライブに行くことと、お金を払うことだ。
 
対価は自分たちが決める。周囲から見たら大損に見えるかもしれない金額も、納得の上で彼女たちのために払っているのだから、むしろ心は満たされている。価値は十二分にあるのだ。
 
マイルストーンの子たちは、貧乏だ。バイトをする時間もない。マネージャーは彼女たちの現実を、ファンに一切合切明かしてしまう。
 
新たな策として出されたのは、握手券自販機。通常の握手券のように1枚1,000円ではなく、金額は0円から10万円まで選択できる。払った金額は、折半の上直接アイドルの懐に入る。いわば投げ銭のようなものだ。
 

 
メンバーにいくら届くかわかっているだけに、直接応援している感がすごい。同時に無料でもいいので初めての人も参加しやすい、という寸法。
 
漫画内の具体策は多少破天荒なところもある。しかし、ファンの「応援したい」欲を満足させる理屈とお金の流れは、かなりわかりやすく表現されている
 

ナンバーワンになるのは同情したくなる女

 
プロジェクトをはじめてから、アイドルたちはそれぞれの苦しみの中成長し、化けていく。
 
例えばマイルストーンの知名度アップと、人の気持ちを知るための訓練として行われた「逆握手会」。街の中に飛び込んで、知らない人に握手を求めるという訓練だ。
 
内気でおとなしい静真由は、ステージでは清楚さが受けていたものの、積極性がない。おかげで人に話しかけられず、逆握手会は惨憺たる結果。
 

 
これはわざと。他の3人が頑張っていることで、比較として彼女の「必死さ」「不器用さ」が目立った。結果彼女に多くの同情が集まった。「どうにかしてあげたい」というファンが一気に増えた。マイルストーンの活動の歴史における、彼女のエピソードとして残ったのだ。
 
順風満帆にいくシーンは無い。毎回4人は逆境に陥る。それで正しいのだ。意図的か事故かは別としても、苦しめば苦しむほどファンは支えたくなる。キツイことが続けば、ファンの応援は強くなる。
 
とはいえ東京ドームを満席にするとなると、桁が3つも4つも違う。それだけ彼女たちにも、手に負えない逆境がやってくるはず。そこからが勝負だ。全力を尽くすアイドルを見てファンが応援するのと同じように、えぐい展開に転げ落ちていく彼女たちを見て、読む手が止まらなくなる。
 
3巻以降では現在流行りの、ネット投げ銭配信サイトを題材にした話も登場。アイドル業界の変化にあわせて、作品の「アイドル」と「お金」の描写も濃くなっていくので、ぜひチェックしてほしい。
 
 
バックステージ!/オクショウ・ニイマルユウ ノース・スターズ・ピクチャーズ