一度読んだら、始めずにはいられない!? 趣味の“きっかけ”漫画4選

まとめ

秋は気温も落ち着き、過ごしやすい季節。また、食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋というように、いろんなことに取り組みたくなる時期でもあります。
日ごろから「なにか趣味を始めたい」「新しい自分を開拓したい」と思ってはいても、実際のところ何が面白そうなのかは自分だけではわからないことも多いですよね。そんなときには、まず漫画を読むことから始めてみるのはどうでしょうか?今回は、主人公が夢中になっていることを読んでいる自分もつい始めたくなってしまう……そんな“きっかけ”漫画を紹介します。

カフェ巡りを趣味にするなら、まずこの一冊『カフェイン・ガール』

カフェイン・ガール(PV)
©飯塚めり/実業之日本社

準備なしで今すぐに始められる楽しい趣味というと、“食べ歩き”が思いつくのは私だけでしょうか? まず紹介したいのは、喫茶店監察家でイラストレーターでもある飯塚めり先生による、喫茶店への愛がこもった1冊です。

編集者の杉下メルは、仕事に疲れたとき、ネタに煮詰まったときなどに喫茶店に逃げたくなってしまう女の子。コーヒーを飲んでカフェインを摂取すると、自分にしか見えない2人のお友達「猫マスター」と「ゴースト」が現れる――というお話です。メルのいくお店はすべて実在し、毎話ごとに住所が乗っているので、物語としてはもちろん、喫茶店ガイド本としても使えるのが、本作の特徴。お店のおすすめメニューとその食べ方だけではなく、店の背景や内装のことなども紹介してくれるので、喫茶店をあらゆる方面から楽しむことができます。

さらに友人と行くならこのお店、お酒も飲みたいならこのお店など、そのときの気分や時間帯によって選択肢を提示してくれるのもいいところ。筆者が気になったのは7話、下北沢の夜カフェでいただく「チョコレートとペパーミントのパフェ」。彩りのよさ、味のグラデーションともに素晴らしいとのことなので、ぜひ自分の目で実物を見に行きたいなと思いました。

本作に出てくる喫茶店メニューのイラストは、飯塚先生が喫茶店で描いたものだそうです。今やグルメ雑誌の喫茶店特集などあらゆる喫茶店情報がありますが、写真ではなく絵で味や姿を楽しむのも面白いかもしれませんね。週末は本作を片手に、喫茶店巡りをしてみませんか。

ジャズリスナーはじめの一歩に、まずは1曲『坂道のアポロン』

坂道のアポロン
©小玉ユキ/小学館

次に紹介するのは、ジャズをちょっとかじってみたい方におすすめの『坂道のアポロン』。
「ジャズなんて難しそう」「普段はJ-POPしか聴かないから」と思っている方でも、安心して読めるライトな作品です。

横須賀から地方の高校に転校してきた西見薫は、ピアノでクラシックを弾くのが趣味の男子高生。ひょんなことから、クラス委員の迎律子、クラスメイトの川渕千太郎と仲良くなります。ある日、迎の実家のレコード屋さんを訪れた西見は、地下のスタジオで川渕がジャズドラムを演奏しているところを目撃します。

「ジャズなんて繊細さのかけらもない音楽」と思っていた西見でしたが、彼のドラムに心を惹かれ、ドラムとピアノでセッションをすることに。繊細で控えめな性格の西見と荒っぽく喧嘩っ早い川渕、正反対の2人が創り出す音楽と友情の物語です。

本作は、ジャズを知らない人でもわかりやすいのが特徴です。日常に生きる趣味としての音楽を描いていて、目線はあくまでも学生である西見たち。楽器やジャズアーティストについての難しい話はほとんどなく、登場する曲も少なめなのです。特に注目してほしいのは3話、川渕が西見に対して「俺だってこの曲ならピアノで弾ける」と、披露した楽曲「モーニン」。これは、実在したジャズ・ドラマー、アート・ブレイキーの曲で、ニュースやCMなどでもよく使われている有名な曲です。

ふだんクラシックしか弾かない西見でも、「モーニン」は聴いたことがありました。それから彼は「モーニン」のレコードを買いピアノの練習を始めます。その後も彼らははあらゆる部分でこの曲を演奏するので、読む側は「モーニン」を知っているだけでも、充分楽しめる作品ですよ。また、映画化、アニメ化もされている作品なので、サウンドトラックにジャズの楽曲が収録されています。聴きながら読んでみると、物語がより面白くなります。まずは本作と「モーニン」から、ジャズリスナーをはじめてみてもいいのではないでしょうか。

みんなが熱狂した、囲碁ブームの火付け役『ヒカルの碁』

ヒカルの碁
©ほったゆみ・小畑健/集英社

20代後半~30代前半の方にとっては、懐かしい作品ではないでしょうか。1999年に「週刊少年ジャンプ」にて連載を開始し、アニメや小説などメディア展開もされた囲碁漫画です。小学6年生の主人公・新藤ヒカルはある日、祖父の家の蔵にて、古い碁盤を見つけます。そこに宿っていたのは、平安時代の天才囲碁棋士・藤原佐為(ふじわらのさい)でした。

佐為の亡霊に憑りつかれてしまったヒカルは、「囲碁が打ちたい」という佐為のために囲碁サロンに。ルールも何もわからないまま、佐為の指示する位置に碁石を打ったところ、勝ってしまいます。最初は乗り気ではなかったヒカルですが、徐々に囲碁の面白さに目覚めていき、やがては自分の実力でプロを目指していく――というお話です。

囲碁というと、将棋よりも身近にやっている人がいないとか、ルールを知らないという人も多いのではないかと思います。実際に筆者も『ヒカルの碁』を読むまで、囲碁のことは全然知りませんでしたし、読んでいても全容を理解することは難しかったです。それでも、不思議とページをめくる手が止まらなくなり、物語にのめり込んでしまいました。今思うとそれは、囲碁が“未知なるゲーム”だったからだと思います。本作を読んで感じる「これって、どういう意味なんだろう?」「分からないけど、面白い!」と思う瞬間。それが、興味の扉を開けるきっかけになったのです。

筆者がすぐ面白い!と思ったのは物語序盤、ヒカルの最初の対局相手・塔矢アキラとのエピソードです。アキラは、ヒカルが行った囲碁サロンにいた少年で、大人を指導できるくらいの実力の持ち主。その正体は、「神の一手に一番近い人」と呼ばれる、塔矢行洋名人の息子でした。若い才能ゆえに同世代のライバルがいなかったのですが、突然現れた初心者のヒカルに負けてしまいます。父を背負い、やがてはプロとしての活躍を目指している天才の、初めての挫折。そのショックな姿に、囲碁に人生を賭けて生きる人々の情熱を感じずにはいられませんでした。

本作の連載当時、実際に「『ヒカルの碁』ブーム」が起き、ニュース番組などでも特集されていたのを覚えています。筆者の周囲でも、学校の囲碁部に入部したり、囲碁サロンに通う者もいました。実際に、日本棋院東京本院に所属する大西研也プロは過去、新聞の取材で「『ヒカルの碁』をきっかけに囲碁を始めた」(朝日新聞デジタル, 2011年12月31日)と話しているなど、プロの現場でも愛されている名作です。

主人公といっしょにゼロから始める音楽体験『BECK』

BECK
©ハロルド作石/講談社

さきほどの『坂道のアポロン』ではジャズでしたが、次はロックバンドのお話です。音楽をやっている人というと、音楽が好きでかなり詳しくないといけない、なんて思っていませんか?『BECK』は、バンド知識0、ギター経験0の主人公が成長していくお話なので、音楽に詳しくない人でも面白く、ついギターを始めたくなってしまいますよ。

主人公・田中幸雄(通称コユキ)は勉強ができるわけでも、モテるわけでもない冴えない14歳。このまま退屈な人生が続いていくのかと思っていたところ、ニューヨークからの帰国子女・南竜介に出会って人生が激変します。竜介は、世界中の若者に人気のカリスマ的ロックバンド「ダイイング・ブリード」のメンバー・エディと過去にバンドを組んでいた経験があるすごい人。そんなバンドのことなど一切知らないコユキでしたが、竜介に影響されてギターを始め、やがては南のバンド「BECK」のメンバーとして、音楽活動をスタートするのでした。

特に印象的なシーンは、1巻の終盤、コユキと竜介がアマチュアバンドのライヴに行ったとき。コユキが南に、「このギタリストどう?」と聞くシーンです。それまでコユキは、竜介のライヴで彼のギターを聴いていたので、純粋に気になったのだと思います。でも竜介は、こう返します。「それよりベースを見な、この辺じゃ一番うまいぞ」。今まで注意してベースの音を聴いたことがなかったコユキは、驚き感心するのでした。

このシーンをはじめとして本作は、ロックの聞き方や始め方を初心者(コユキ)の目線で体験していくことができるのです。楽器を買うために楽器屋に行ったり、レコーディングするためにバイトしてお金を稼ぐなど――それは当たり前のことかもしれませんが、その瞬間の努力や感動は実際に体験してみないと分かりませんよね。『BECK』なら、まるで自分がバンドマンになったかのように体験できます。

物語の面白さはもちろん、あらゆる部分にロックネタが仕組まれているので、もともとロックが好きな人、わりと聴き込んでいる人も満足できるのではないかと思います。毎話の扉絵の多くは、実在する名盤のジャケット写真をパロディしたもの。筆者は90年代に活躍した「ナンバーガール」というバンドが大好きなのですが、ナンバーガールのアルバムのパロディが扉絵に登場したときは、感動してしまいました。

まとめ

何かをチャレンジするということは、とってもワクワクしますよね。「あまり得意ではないかも」と落ち込んでしまったり、失敗してしまったりしたとしても、興味を持ち続けることがまず大事なのだと思います。筆者も、“好きこそものの上手なれ”という言葉を大事に、趣味でバンドを続けています。この秋何かを始めるなら、漫画からきっかけを掴んでみるのも、ありだと思います!

カフェイン・ガール(PV)/飯塚めり 実業之日本社
坂道のアポロン/小玉ユキ 小学館
ヒカルの碁/ほったゆみ・小畑健 集英社
BECK/ハロルド作石 講談社