『ギルティ ~鳴かぬ蛍が身を焦がす~』その人気の秘密に迫る -丘上あい先生 独占インタビュー-【後編】

インタビュー

「講談社×まんが王国 共同プロジェクト」として独占先行配信を開始し、以来まんが王国でランキング上位を取り続けている『ギルティ ~鳴かぬ蛍が身を焦がす~』。

今回、まんが王国ラボ編集部が作者の丘上あい先生に独占インタビューを敢行し、貴重なお話を沢山伺うことが出来ました。
前編では作品の制作秘話を伺いましたが、後編では、先生ご自身のこと――漫画家になったきっかけから、ご家族のことまで、たっぷり語って頂いています!

ギルティ ~鳴かぬ蛍が身を焦がす~ 分冊版
©丘上あい/講談社

小学校の時の体験が、漫画家としての原点かなって思います

Q.漫画家を志したきっかけは、どういったことだったのでしょうか。

まんが王国ラボ編集部(以下、ラボ):先生のプロフィールを拝見させて頂いたんですが、専門学校では絵本学科にいらっしゃったということで。

丘上あい(以下、丘上):そうです。

でも、元々絵本を描きたかった訳じゃなくて。絵本っていろんな表現を教えてくれるんです。絵のタッチとか、デッサンとか、絵画作法とか。児童心理も教えてくれる学校だったので、通っていました。

卒業した後、19歳の時に1回だけ投稿したんですけど、その時は原稿用紙だけ貰って終わって。その後は、しばらく何もせずフリーター生活を送っていました。

当時、専門学校の友達がグループ展をよくやっていたんです。私も仲のいい友達のグループ展によく行っていたんですけど、ある時、急に自分が恥ずかしくなったんですよ。

「私、まだ何にもしてないのに、みんな、なんてイキイキ生活してるんだろう」って……ちょっと悔しい気持ちが湧いてきたんです。

そんな折、また友達から「グループ展やるから来てね」って電話が来たときに、嘘をついたんです。

「私、今漫画投稿しようと思ってて、忙しいから行けないんだよね」って(笑)。

そうしたら友達に「すごいね、頑張って!」って言われてしまい、もう「描くしかない」と思って描いて、それでデビューしました。

ラボ:す、すごい……!

「漫画家デビュー」っていうと、小さい頃から漫画を描いて、何度も投稿してはボツになって……っていうイメージがあります。

丘上:そうなんですよ、そういう人たちはデビュー時からある程度技術がしっかりしているんです。

でも、私は漫画の描き方を全く知りませんでした。

当時は全部アナログで描いていたので、黒ベタのところにはトレーシングペーパーっていう薄い紙を敷いてその上から鉛筆で文字を書いてセリフの指定を入れるんですが、そんな事は知らずに付箋を貼ってたんです。そうしたら当時の担当さんに

「付箋だと取れるから……」

って言われて、

「あ、そうなんですか!?どうしたらいいんですか!?」

「トレペを上から貼って……」

「え、トレペ!?トイレットペーパーですか!?」

みたいなやり取りをしちゃうぐらい、漫画の知識が全然ない状態でした。デビュー当初は、大変でしたね(笑)。

一同:(笑)

丘上:投稿作もデビュー作も、最初はミリペンだけで描いていました。つけペンはデビューしてから使い始めたんですが、「なんでこんな描きにくいもので描かなきゃいけないんだ」って思って、途中から「やっぱり自分の描きやすいペンで書こう」って思って、またミリペンで描くようになって。

10年くらいアナログで原稿制作をして、今はデジタルでやっています。

*ミリペン・・・先端が細い棒状になったペン。
*つけペン・・・ペン先にインクをつけて使用するペン。

「そんな漫画家もいるんだね」って思ってもらえたら。それも面白いかな、って思っています(笑)。

ラボ:漫画を「描きたい」と思っていたのは、昔からだったんでしょうか。

丘上:小学生の時に初めて読んだ漫画が、『うる星やつら』で、その時「なんて面白いものがこの世にあるんだ」って思いました。

昔から、絵を描くのも話を作るのも好きでしたね。いつも学校に行く時に、同じ登校班の子達に自分の創作の物語を語って聞かせてたりもしていました。

それで、「『絵を描く』のも『話を作る』のも、両方出来る仕事があるんだ!」って思ったのが漫画家でした。

当時、クラスで好きだった男の子に、少しでも気に留めて欲しくて、その子を主人公にした漫画を描こうと思って――でもそれだと彼のことが「好きだ」ってバレるから、クラスの皆を登場人物にしました。「自分が出てたら読むだろう」って思ったんです。

クラスの半分位の子を漫画に登場させたら、もう皆、毎朝こぞって「続きを早く!」って言ってくれて。宿題しないで夜遅くまで続きを描いて、それを読んでもらうのが本当に嬉しかったです。

「自分が出てるから読みたい」―――要するに「共感」ですよね。

「なるべく共感できるキャラクターや感情移入しやすいものを作っていく」っていうベースを作ってくれたのが、その小学校の時の体験で、そこが漫画家としての原点かなって思います。

深見じゅん先生の『ぽっかぽか』っていう作品が大好きで。

Q.好きな作家さん、影響を受けた作家さんや作品があれば、教えてください。

ラボ:先ほど『うる星やつら』を挙げていましたが、他に影響を受けた作家さんや、好きな作品ってあるんでしょうか。

丘上:高校ぐらいの時は、いくえみ綾先生が大好きでした。

中学校の時は、ティーンズハート文庫っていうのに皆ハマってて。私は折原みと先生が大好きで、折原先生の絵はよく真似して書いてましたね。

だから『デザート』でデビューした時、折原先生と同じ「お」で名前が並んだ時は、感動で震えました。

あとは、以前『BE・LOVE』でも描いていらっしゃった、深見じゅん先生。深見先生は、『ぽっかぽか』っていう作品が大好きです。

「幸せで泣ける漫画」ってあんまり無いと思うんですけど、『ぽっかぽか』って、何にもギスギスしたところが無くて、ただの家族の話を描いているだけなのに、すごく幸せで涙が出るような漫画で、本当に好きです。

――そういうところを目指していたんですけど、「どうした、今」みたいな(笑)。

一同:(笑)

ラボ:『ギルティ』は「新境地のチャレンジ作」ですからね!(笑)

丘上:経験値として「今はこういう作品をやっておいてもいいのかな」とは思いますが、最終的にはそういうところに戻るのが理想です。

絵柄は人の影響を受けないほうなので、絵柄の影響を受けた先生はいないですね。

「さつき」みたいなキャラクターが、主人公でも脇役でも、どこかに居て欲しいなって思っています

Q.過去に描かれていた作品で、お気に入りのものがあれば教えてください。

丘上:どれも思い入れはありますけど……、最初に描いた作品『やさしい子供のつくりかた』に出てくるヒロインの義理の姉で「さつき」っていうキャラがいるんですけど、自分の作品に出てくる「強い女性」のベースになっているのが「さつき」ですね。

「さつき」のキャラクターが、どの漫画のキャラクターにも影響しています。『きーちゃん先生の事情』という作品の「希帆」も、「芯の強い女性」像は「さつき」から来ていたり。

「ちょっとバカだけど真っ直ぐで、ちょっと口は悪いけど愛情があって」みたいなキャラクターの根っこにあるのが全部「さつき」なので、個人的には一番思い入れが強くて、描きやすいキャラクターです。

「さつき」って、自分をそのまま描いたキャラクターだったんですよね。その、雑で粗暴な感じが。

主人公でも脇役でも、どこかに居て欲しいなって思うキャラクターです。

『ギルティ』では、爽も髪の毛の長いビジュアルではあるんですけど、爽は「芯が強い」っていうよりも「強く見せようと頑張っている人」っていう感じですね。

叱咤激励する「さつきスピリット」を持ったキャラがいるとしたら……、今回だったら爽の友達の若菜かなぁ。本当は、もっと「シッカリ者の姉さん」みたいな人、出したいんですけどね。

「今からだったら何にでもなれるよ」「絶対叶うからね」っていうのが、子供に一番伝えたいことです。

Q.原稿を書く日は、どういうスケジュールで1日を過ごされていますか?

ラボ:単行本の発売もあり、連載もありでお忙しい日々を過ごされているかと思いますが、原稿を描いたり作業をされる日って、どういうスケジュールで1日を過ごされているんでしょうか。

丘上:私、ほとんど仕事しかしていないんですよ。

原稿だけじゃなくて、身の回りの事とか、家のことまで手伝ってくださるスタッフが1人いて、私が仕事に集中できる環境を作ってくれるんです。

なので、私はほとんど仕事してますね。「一日のうち、どこの時間を仕事」というか「起きてる間はほとんど仕事」してます。

ラボ:先生はお子さんもいらっしゃると伺っていますが、大変じゃないでしょうか。

丘上:そうですね。子供の行事とか、お弁当を作らないといけない時とか、そういう時は徹夜明けで行ったりします(笑)。

夫が朝の準備や朝食を全部やってくれるので、その代わり、学校の行事だったり、役員やPTAだったり、習い事の送り迎えだとか、そういう朝出来ないことを私がやっています。私が朝の6時、7時――ちょうど夫や子供が起きる時間に寝るので、朝のことをやってもらえてすごく助かるんですよ。

私は仕事場を自宅とは別に借りていて、基本そっちで寝泊りしているんですが、仕事場のほうが自宅より小学校に近いので、子供が学校帰りに寄るんですよね。共働きでも「お母さんにいつでも会えるよ」っていう環境を作っておいたら、安心かなと。

………「仕事してる時は話しかけないでね」って言いつけていますけど(笑)

丘上:一人っ子なので「なるべく寂しい思いはさせたくないな」とは思っているんですけど。2歳ぐらいから「お仕事中は邪魔しないで」って言われて大きくなっているので、気を遣って邪魔しないようにしてくれるし、応援もしてくれています。

ラボ:先生のTwitterで、母の日のカーネーションを見ました。


https://twitter.com/okaueai/status/995524510764814336

丘上:あぁ、そうですね、カードとかくれましたね。

ラボ:そういう環境があるから「お仕事頑張ってね」って書いてくれたんですね。

丘上:そうですね。「お母さんにとって一番大事なのが仕事」っていうのも知ってるし、お母さんとして一緒にいる時間が、恐らく他のお母さんより絶対圧倒的に少ない。

「朝ごはんを出してくれて、寝るまで傍にいてくれる」お母さんではないけれども、「今の君くらいのときに目指した夢は、叶うよ」っていうのを、自分の背中を見せることで教えてあげたいなって思っています。

私が子供に教えてあげられる事ってそれぐらいしか無いんですが――、「今からだったら何にでもなれるよ」「絶対叶うからね」っていうのを、自分が仕事を続けることで教えてあげられたらなっていうのが、子供に対する言い訳であり、一番伝えたいことですね。

ラボ:逆に、先生みたいなお母さんじゃないと、そういうことを言ってもらえたり、教えてもらえる機会も無いかと思います。

丘上:自分の母親が舞台女優をやっていたので、私も特殊な環境ではあったんですよね。母も、私がこの仕事を始めるとき、反対は一切しなかったです。夫も、サポートは全力でするからって言ってくれて、家のことも全部やってくれて。

母親、夫、子供――そうやって「頑張って」って言ってくれた人たちのおかげで今やれているんです。

………ただ、家族に「『ギルティ』だけは読むな」って言ってます。

一同:(笑)

丘上:作品を、夫と家族が結構読んでくれるんですよね。今までの『赤ちゃんのホスト』とかだったら「どうぞ読んでください」って言えるんですけど。

『ギルティ』の連載を始める前に、夫に頭を下げて「恐らく今までやったことの無い相当エグい内容だし、場合によっては『これ、お前(夫)がやってることか』って思われてもおかしくない。親族から責められることがあるかもしれない。でも、私はどうしてもやりたい」って言ったら「頑張って、別に俺は何を言われてもどうでもいいんで」って言ってくれて。

あと、「いつも読んでくれてる(夫の)ご両親には悪いけど、これだけは読まないで欲しい。読んでくれるのは有難いけど、お義父さんとお義母さんが読んでるって思ったら、私、振り切れない」ってお願いしたんですよね。

子供、夫、ご両親、そういう人たちのことをちょっとでも考えちゃうとブレーキがかかるかから――描けなくなるから。私はそれをとっぱらいたいから、「絶対今回は読まないで」って。

だから、私の一番近くにいる人達は『ギルティ』を読んでないんです(笑)。

これまでの経験が、作品の「意外性」に活きていると感じます

Q.『ギルティ』は今まで描いたことのない「新境地」のテーマで描かれているとのことですが、これまでのご経験が『ギルティ』の作品創りに活きていると感じることはありますか?

丘上:色々な人に「丘上さん、『ギルティ』みたいな作品の方が向いてるんじゃない?」って言われて、なんともいえない気分になってるんですよね。

「私の十数年っていったい…」って(笑)

でも、『ギルティ』で描いていて楽しいキャラクターって、もちろん瑠衣もそうなんですが、チートンのマスター・龍さんと未来ちゃんが一番楽しいんです。あの2人、息抜きなので(笑)

ああいう禍々しい話の作品で、龍さんみたいなちょっとおバカなキャラは普通あんまり出てこないと思うんですけど、逆に今まで培ったもので描けてるんですよね。

絵柄もそうですけど、ギャグやおふざけのターンもちょっとあったりで、「まさかこんなエグい話だとは思わなかった」っていう作品になっているのかな、と。ただの不倫漫画って言ったら不倫漫画なんですけど、「あんまり読んだことがない」、そういう意外性があって受け入れていただいてる部分もあるのかな、と思います。

ラボ:「不倫」をテーマにした漫画って、結構沢山出てますけど、『ギルティ』に対する反応とか、毎話のパンチ力とか、そういうところを見ると、他にないものかなと、私も一読者としても感じます。

丘上:ずっとそれをやってきた人だったら、自分の「パターン」があるのかもしれないですけど、私は全くやったことのないテーマなので、なんだろう、作ったことのない料理を………

ラボ:逆に、違う切り口から作れるっていう。

丘上:そうですね、そういう感じですね。

だから、ものすごいエネルギーを使うんですよ。この話。楽しいし、望まれたらこういう形のものはやってみたいけど、制作していて神経のすり減り具合が尋常じゃない。

話の大筋は決めてあるんですけど、先の展開が読めないものにしたいんで、細かいところは担当さんとその場で決めたりするんです。「じゃあ、今回はこの人を裏切り者にします?」って。私自身が予測不能な展開で進んでいて、だからこそ、いっそう緊張感があるんですよね。

――子供がいるので、安心して子供が読める作品は1回やってみたいと思っています!(笑)

「次の展開は、心の中で楽しみに待っていてもらえたら」

『ギルティ』は、読者の方々から配信日のお問い合わせを頂いたり、また新刊配信時の反響の大きさからも、毎回その人気ぶりを感じています。最後に、そんな熱心な読者の方々へ、メッセージを是非お願いします!

丘上:いくらレビューでカズくんを叩いてくれても――もうカズくん限定になってますけど(笑)、カズくんをどんなにフルボッコにしてくれてもいいんですけど、心の中だけで予測してくれれば。次の展開は、心の中で楽しみに待っていてもらえたらなぁ、という感じです。

一同:(笑)

丘上:あと、この手の話が嫌いな人は本当に回れ右して読まないでください、というのは言っておかないと。誰も傷付けない創作物は無いとは思っているんですけど、『ギルティ』は比較的傷つけてしまうものだと思うので―――

こういうことを過去にされて、思い出すだけでも鳥肌が立つような人にはあまりオススメできないです。

丘上:お子さんが読まないように気を付けてね!

ラボ:そうですね、20歳を超えて色々分かるようになってから読んで頂ければ。

丘上:そうなんですよ。うちの子供がたまに『ギルティ』の広告バナー見つけて「うぅぅん」なんて言ってるから「開いちゃだめよ」って。

友達にも「お前の母ちゃんエロ漫画描いてんのかよ」って言われるかも知れないけど、言われたら、肩を叩いて「『描いてるよ。まぁ、お前もそのうち読むから』って言ってやんなさい」って言ってます。まぁ、あんまり心配してないんですけど(笑)。

ラボ:(笑)楽しいお話をありがとうございました!

先生の人柄や作品への想いも垣間見ることができた今回のインタビュー。全編を通して、笑いの絶えない楽しい時間を過ごさせて頂きました。

毎話衝撃の展開が待ち受ける『ギルティ ~鳴かぬ蛍が身を焦がす~』。最新話が読めるのはまんが王国だけ!

この機会に、知らなかった方も是非チェックしてみてください。

ギルティ ~鳴かぬ蛍が身を焦がす~ 分冊版/丘上あい 講談社

今回の企画にあたって、丘上あい先生直筆のサイン色紙をいただきました。

こちらの色紙、1名様に読者プレゼントします!

応募方法は

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応募締切:8月2日(木)23時59分まで。

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