眠れない準備はできてますか? とにかく不気味なホラー漫画『後遺症ラジオ』

レビュー

どんな怪奇現象でも、ひとまず何が原因かがわからないと対処のしようもない。
 
故事成語「幽霊の 正体見たり 枯れ尾花」よろしく、自然物が原因で幽霊に見えているだけなのか。はたまた本当に人ならざるものが仕業なのか。
 
人間、「ナニかわからないものがいちばん怖い」のだ。

だからこそ、かつての名作ホラー映画『リング』では「呪いのビデオ」に巻き込まれた人たちが、呪いの元凶が誰にあり、どういう状況で生じるかを必死に探し出した。「傍に置いておくだけでも怖い」と山本周五郎賞を受賞した小野不由美先生の小説『残穢』では怪奇現象に悩むマンションの住人が古地図を引っ張り出して、過去その土地に何があったかを紐解いていった。
 
そう人間、「ナニかわからないものがいちばん怖い」のだ(大事なことなのでもう1回)。
 
酷暑の夏もゾゾッと冷えるような怖い漫画が『後遺症ラジオ』である。
 

後遺症ラジオ
©中山昌亮/講談社
 
作者の中山昌亮先生は前作の『不安の種』もそうだったが、ナニかわからないものが怪奇現象を起こして、その原因がよくわからないからこそ超絶に怖い!という作風が特徴である。
 

街をランダムに襲う怪奇現象

 

 
とある駅のホームで、線路に降りる人を発見する女性。
 
「自殺!?」とうろたえるものの、なぜか誰も止めようとしない。そのまま電車が停車し、おそるおそる目を開けると……。
 

 
電車を突き抜けて何食わぬ様子で立つ人……ではないナニか。
 
そのまま電車は走り去ってしまうが、女性ははっきりと「ナニかが乗客の足を掴む」のを見た。足を掴まれた乗客はどうなってしまうのか……。
 

 
場面変わってとある放課後の学校。教室の机で本を読んでいる女の子を友達が外から必死に呼びつける。
 

 
けげんな顔で近づいてきた女の子を廊下に引きずり出す友人たち。いきなりの乱暴に文句をたれながらも自分のいた席を見ると……。
 
この話の何が恐ろしいって、「なんなの!?」という言い知れぬ不安と恐怖ばかりに襲われて、それが襲われたまま何ひとつ解決しない。だから対策のしようも、逃げようもないところだ。
 
おぞましすぎる。

「おぐしさま」なる謎の神様

 
街のいたるところでランダムに発生する怪奇現象。
 

 
時系列や登場人物もバラバラのオムニバス形式で進むこの作品のなかで、読み進めるうちに(神の視点の読者にしかわからないかたちで)ひとつの共通項が浮かび上がってくる。
 

 
それが「おぐしさま」という謎の神様。
 

 
ときには家への侵入を拒むべき対象として、ときには村人を導く対象として信仰されてきた「おぐしさま」。
 
「おぐしさま」とは一体なんの神様なのか?
 
街のいたるところで伝播する恐怖とどんな関係があるのか?
 
意図するしないに関わらず、人々は「おぐしさま」がもたらすさまざまな恐ろしい現象に巻き込まれていく……。
 

 

暑い夏でもゾゾゾ!とにかく描写が怖い

 
読者目線では「おぐしさま」が関わっているんだな……ということはわかっても、結局それが何かわからないままストーリーが進んでいくうえ、中山先生の描くこわーいシーンは冗談じゃなく怖い。
 
怖い話が苦手な友達に見せたら、数ページ読んで「ウワーッ」と叫び、本を投げ返されてしまった。
 

 
喫茶店で若者が変な髪型の男を発見したので、おもしろがって横から見てみると……。
 
この後どうなるかは読んでから……。
 
何気ない日常の一場面、ひょっとするとその場にいる人も気づかないような瞬間に人々を襲うホラー。もしくは、安易にちょっかいをかけてしまったばっかりに遭遇する恐怖。
 
しかもその描写が突然やってくる。「くるぞくるぞ…」と予感させる前置きが一切なく、ページをめくるといきなり山場。幽霊ドン!呪いドン!死体ドン!
 
ね!?めちゃくちゃ怖いでしょ!?
 
ホラーが得意な人でもゾクッときてしまうシーンの連続。苦手な人は多分夜眠れなくなるんじゃなかろうか。
 
2018年の夏は酷暑も酷暑、うだるような暑さに辟易している人も多いはず。(もちろんエアコンはつけてね)
 
蒸し暑くて眠れないそんな夜は『後遺症ラジオ』を読んで背筋をさむ〜くしてみては!?
 
あ、ちなみに私は眠れるけれど、なんとなくシャンプーしているときの背中が気になったり、中途半端に開いたドアが気になるようになりました。
 
何かがいるような気がして……。
 
 
後遺症ラジオ/中山昌亮 講談社