『ガタガールsp. 阿比留中生物部活動レポート』キラキラした目の生物マニア女子に恋をするのはしかたない

レビュー

小原ヨシツグによる、生き物ガチ勢な中学生のドタバタコメディ『ガタガール』。テーマが干潟というコアさが人気だったが、実は一度2017年4月に完結した漫画。連載終了が決まってから、Twitterで1万RTしたら連載復活、という応援企画が持ち上がり、見事復活を遂げた作品だ。
そのため『ガタガールsp. 阿比留中生物部活動レポート』は『ガタガール』1、2巻からの完全な続編。とはいえここからでもちゃんと楽しめるようになっている。

ガタガールsp. 阿比留中生物部活動レポート
©Yoshitsugu Ohara/講談社

あの子は面倒くさい

中学2年生の潮崎干太が姉の手伝いで行った、大学の干潟観察会。いやいやながら参加していた所、本格胴長装備で挑む妙にかわいらしい子の姿が。それは、干太がかつてから気になっていたクラスの少女、七瀬汐だった。
いつもおとなしくて落ち着きがある子だったのに、干潟では超ハイテンション、時折方言むきだしではしゃぐ。こちらが汐本来の、スイッチオンの姿。彼女の干潟好きに振り回されるがままに、生物部の活動に参加することに……というのが『ガタガール』のあらすじ。

汐は生物の話絡みになると、やたらと面倒くさい。
好きなものの知識をガンガン頭に叩き込んで、仲間(生物を好きにそうな人、つまり生物部員や干太)にドヤ顔で披露する。しかも解説が長い。
それでいて知識や作業量で負けると、あっという間に機嫌を損ねる。干太が自分よりたくさん貝を集めただけでも、すぐへそを曲げる。
干太は好きな女の子と一緒にいたいからと側にいるものの、かなりの頻度でついていけなくなる。生物部の他の子は彼女と大の仲良しだけれども、スイッチが入ったら巧みに距離を置くことがあるほど。

もっとも、彼女の気分のスイッチは露骨にわかりやすいので、さほど鬱陶しくはない。むしろまるで小動物のようで、見ているとだんだん可愛く感じてくる。

汐が干潟を漁るのは、生物を調べるのが好きだからだ。捕まえた生物はアルコール漬けなど即標本にする。生態を調べるためなら悩むまでもなく、冷凍庫(通称・凍てつく愛の監獄)につっこんであっさり殺す。マッドサイエンティスト感は強め。
女の子がなにかに夢中になるかわいさと、電波的にぶっ飛ぶギャップの両方が盛り込まれたキャラだ。

干潟を多方向から楽しむヒロインたち

汐以外に出てくるヒロインたちは、それぞれ干潟をいかにして楽しむかを、各々の角度からうまく表現している。

後輩の岡谷紫は、あらゆる変わった生物を料理するのが生きがいの子。干潟にいる様々な生き物を、自分で採って自分で料理する。料理のために、かなりの知識も持っている。なお干潟生物じゃなくても、食べられるものならなんでも興味があるらしい。
当然食べるとなると、殺さなければならない。彼女は基本生き物を見たら食材として分析している。時折コミカルかつ残酷に見える彼女の思考だが、これは人間が行ってきた食の研究の歴史をなぞる考え方だ。

浦井戸海は、生物のかわいらしさに惚れ込んだ少女。干潟で見つけた動物は、できるだけ飼いたいというスタイル。そのため遠慮なしにさっさと殺してしまう汐とは衝突してしまう。
彼女の愛護の精神は部の中でも比較的良心的に見える、しかし、生物は飼う・生かすのが正しいとは限らない。彼女の行動の裏に、人間と自然生物の保つべき距離感の思想が表現されている。

本作から登場した玉敷翼は、基本的には3人と同じ生物好きだが、それを超越してフェチの領域に飛び込んでいる。おっとりしている彼女だが、干潟の生物、特にゴカイを見るとすっかり興奮してしまい、愛しすぎるがゆえにそのまま食べてしまう。いわば捕食。紫が味わう目的で料理するのと全く違う。彼女が食べるのは、好きな生き物と一体になりたいからだ。

干潟の生き物の中には寄生虫持ちや毒持ちもいる。それでも口に入れるのだから、クレイジー度はトップクラス。もっとも現実でも研究者で好奇心から食べたり舐めたりする人は少なくないらしい。好奇心と生物愛のたどり着く極地だ。もちろん真似は絶対NG。

キラキラのドヤ顔

4人に共通しているのは、好きなものについて話すとき、ものすごくキラキラしているということだ。どうしても汐の奇行が目立つが、実際の所みんな、ドヤ顔で「自分の好きなこと」を話す。
それぞれ大分行き過ぎているので対処に困るシーンは多々ある。けれども楽しそうに好きなものを語る様子は、見ていて幸せになれる。

部活漫画としては異色作ではあるが、基本「思春期に傾ける情熱」という面では王道的な作品だ。読んでいると中学生の気持ちでワクワクしてくる。

何もかもが「かわいい」ではなく、気持ち悪いもの、えぐいものもストレートに描いている(グロテスクな連中が視点を変えれば愛しくなるのは、翼の行動から見ることができる)。泥まみれにもなるし、埋もれて動けなくもなる。危険生物もいる。干潟観察は間違いなく大変。
でも干潟の豊かさは、好奇心をそそってくる。こじれた性格だけれども、惹かれてしまう汐のキャラクター性と良く似ている。彼女の感情の潮の満ち引きは、とても愛しい。

ガタガールsp. 阿比留中生物部活動レポート/小原ヨシツグ 講談社