この世のものとは思えないほどの美人…なのに男!?青春+ケンカ+ファンタジー『天使な小生意気』のススメ

レビュー

「漫画のキャラで、最も美人だと思うのは誰か」

なんて話を、先日友人とした。

いや、すごい非生産的な話だってことは分かってるんですよ。でも、楽しいじゃないですか、こういう生産性のない話って。

『銀河鉄道999』のメーテルかなぁ、いやいや、そこは王道の『ルパン三世』の峰不二子ちゃんでしょ……とかなんとか話していたところで、ふと気が付いた。

おそらく誰も勝つことができないであろう、圧倒的なステータスの美人がいたことを思い出した。

才色兼備、文武両道、お人好しの性格、富豪の娘、ケンカの強さ……。

西森博之先生の作品『天使な小生意気』の主人公、恵である。

天使な小生意気
©西森博之/小学館

美しい主人公は元○○……?

剣ヶ峰高校に通う高校1年生、天使恵(あまつか めぐみ)は、街を歩けば誰もが振り返るほどの絶世の美少女。

美しく、強く、正義感に溢れる恵だが、彼女にはある重大な秘密があった。

実は恵は、元・男なのである。

元・男だと言っても、性転換手術を受けて女性になったわけではない。

小学生の頃、謎の老人からもらった絵本に宿る小悪魔に魔法をかけられて、少年から少女へと姿を変えてしまったのである。

周囲の人々の記憶はすべて書き換えられてしまい、恵が男であったことを知るのは、恵本人と、そのとき一緒にいた幼馴染の花華院美木(はなかいん みき)だけとなってしまった。

その日から6年、高校の入学式を迎えた恵は、どうにか男に戻るべく消えた絵本の手がかりを探ろうとするが……。

『天使な小生意気』は、そんな恵と美木、高校生活を通して出会った個性豊かな仲間たち(通称・めぐ団)の日常を描いた青春コメディー。

美女の周りにはトラブルが尽きない?

入学式当日の朝、恵は学校へ向かう道中で、こっぴどく女性をフるガラの悪い男を見かける。

正義感が強くてケンカっ早い恵はつい、その男を強烈な金的キックでノックアウトしまう。(多分これ「ケンカっ早い」とかいうレベルじゃない)

何事もなく(?)その場を立ち去った恵だったが、間も無くしてその男と思わぬ形で再会することになる。

なんと彼は、恵と同じく剣ヶ峰高校に入学する蘇我源造(そが げんぞう)という悪名高い生徒で、しかも同じクラスだったのだ。

睨み合う美女と悪党、最悪の展開にざわつく周囲の生徒たちだったが、その勝負はまたしても一瞬で決まる。

恵、圧勝である。そう、華奢な体からは想像できないほど、恵はとにかくすさまじく強い。「元々男だったから」とか、そういうレベルの強さではない。

美しくて、性格も良くて運動神経が抜群で、成績もトップクラスで、富豪の娘で、そしてケンカも超強い。笑っちゃうくらい何もかもを持ち合わせたスーパー主人公、それが天使恵なのである。

この漫画は、「恵の強さ」が様々な展開を生み出していく。

例えばこの源造は、自分を倒した恵の強さにメロメロになってしまい、さらに恵にピンチを救ってもらった経験から「恵のために無駄なケンカはやめる」と誓う。

当初は「めちゃくちゃヤバイ怖い不良の人」として描かれていた源造だったが、恵に惚れてからは恵のことを「めぎゅ」「めぐタン」「めぐ〜♡」と呼び、ただの「親しみやすいコミカルなアホ」になってしまった。(でも、恵がピンチのときはカッコよく活躍する)

また、恵のライバルとして登場する田中桂子(たなか けいこ)は源造とは逆に、「恵の強さ」に強く嫉妬する存在として描かれる。

桂子自身も美人で家柄もよく、男性にも負け劣らないほど武道に長けているが、幼い頃に暴漢から自分を救って戦ってくれた恵の姿に憧れを持つと同時に、「この私にそんな感情を持たせたこの女が憎い」と思うようになった。

ほとんど逆恨みに等しいが、恵への執着は異常で、ときに恵たちを巻き込むほどのトラブルを引き起こす存在となる。

コミカルな日常と、ケンカのシーンのギャップ

西森博之先生といえば超有名作品として『今日から俺は!!』がある。その名作と本作に共通するのが「ケンカのシーンのカッコよさ」だ。

悪しき者たち(不良や痴漢など)をバッタバッタとなぎ倒していく登場人物たちは見ていてとても気持ちがいいし、ましてや恵は見た目が美しいのに抜群に強く、ケンカに興味がない女性の私ですらついつい憧れてしまう。

とはいえ、本作では漫画の中でケンカばかりしているわけではない。

恵と親友の美木、さらに「めぐ団」たちのほんわかする日常のお話もしっかり描かれている。

源造をはじめとする「めぐ団」には、平凡でとにかく「普通なこと」しか特徴のない藤木や、異常に根性の座っている変態の安田など、個性豊かなキャラクターたちがいる。

西森先生の描く漫画は、キャラクター同士のやりとりがコミカルでほのぼのと和ませてくれるだけでなく、仲間同士の絆やキャラクターの成長していく様が細かく描かれるなどストーリーもしっかりしており、なによりケンカのシーンを描く際のパターンの多さ・緻密さ・爽快さがずば抜けて良い。

ラストには意外な結末が…

少年の頃に女にされてしまった恵が、男に戻るために手がかりを探っていくこの作品。

物語が進むにつれてその真相が明らかになっていくのだが、最終的に、誰も予想できない結末だったことが印象的だ。

全20巻にわたってそれぞれのキャラクターの心情や戸惑いが描かれていくが、最終回でこれだけ綺麗にストーリーをまとめられるのは、西森先生の物語を紡ぐ巧さあってこそだと思う。

また、読んでいて悲しくなったり、辛くなったりすることもなく、むしろ幸福感さえ覚えるのが西森先生の作品の魅力である。基本的にコミカルで、明るいタッチで描かれている作品の良さを、改めて感じることができる。

笑いあり、感動の涙あり、恋愛(ちょっと)あり。そしてケンカあり、強く美しすぎる主人公あり。

そういった作品を探している人がいれば、ぜひオススメしたい作品だ。

天使な小生意気/西森博之 小学館