この号泣は義務教育レベル!『フルーツバスケット』を読んだことがない友人に読ませてみた

レビュー

もし自分が親になって子どもができたとき、子どもに読ませたい漫画としてどれを本棚におくか。
 
ひとたび漫画好きが集まれば、「『SLAM DUNK』は義務教育」「『あさきゆめみし』を読めば古文は安心」「『銀の匙 Silver Spoon』で食のリテラシーを高めたい」と様々な意見が飛び出す。
 
とある友人は、息子の身長が140cmくらいになったら届く高さに桂正和先生の『電影少女』を並べたいと言っていた。素晴らしい親心である。
 
さて、いろんな作品が候補に上がるなか、この名前を出すとほぼ全員が「ああああ〜〜〜わかる」と納得する作品がある。
 
高屋奈月先生の『フルーツバスケット』である。

 
ね?わかるでしょ?
 

高屋奈月先生の『フルーツバスケット』ね。通称『フルバ』ね。マジで最高の作品だよね。

 

フルーツバスケット
©高屋奈月/白泉社
 
当時の少女たちの涙腺を決壊させまくり、いまなおアラサー世代から超絶な支持をうける少女漫画のレジェンド。『りぼん』派の人も『ちゃお』派の人も、『フルバ』は読んだことがある人っても少なくない(『花とゆめ』という雑誌に掲載されていた)。
 
その証拠に、15巻までの累計売上部数が200万部を超えて、2008年には「もっとも売れている少女マンガ」として、ギネスブックへの登録がされているのだ。
 
しかし悲しいかな、それでもやはりあの大名作を知らないという人はいる。とくに世代が下になると。
 
という訳で、フルバ全巻を読んだことがない友人に読ませてみました。
 
作品の紹介もしながら、フルバ童貞の友人が何を得たのか、追っていきたいと思います。
 
 

異性に抱きつかれると動物に変身! 異色の世界観

 
物語のあらすじはこうだ。
 
主人公の本田透は都立海原高校に通う女子高生。たったひとりの家族だった愛する母親を事故で亡くし、アパートを追い出されたことで小山にテントを張ってホームレス生活を送っていた(この出だしがすでに異色)。
 

 
しかし、透がテントを張って暮らしていた土地は、街を代表する大名家・草摩一族が所有する土地だったのだ。
 

 
同級生で草摩一族のひとり、草摩由希に出会った透は、ひょんなことがきっかけで由希も暮らす一族のなかのひとり、草摩紫呉(しぐれ)の家に居候することになる。
 

 
容姿端麗で皆から「王子」ともてはやされる由希。
 
絶大な家格を持つ草摩一族だが、彼らには他者に知られてはならない秘密があった。彼らの血には代々、十二支の物の怪が憑いており、その呪いを受けて生まれてきた者は異性に抱きつかれると、憑かれた動物に変身してしまうという体質だったのだ……。
 

 
由希は子、つまり鼠が。紫呉は戌、犬の物の怪が憑いている。他にも、一族のなかには子と戌を除く10の物の怪憑きたちがいるのだという。
 
そして、十二支の他にもうひとり、物の怪憑きが。
 
それが、由希をライバル視して彼を倒すことだけに心血を注ぐ少年、草摩夾(きょう)だ。
 

 
彼には神話の時代、鼠に嘘の情報を教えられて十二支に入れなかった落伍者の獣、猫が憑いている。自分を陥れた鼠を追い回すかのように、由希に報復を誓いながら彼も同じく紫呉の家に居候をはじめることに。
 
次々と現れる個性豊かな十二支のとのハートフルなライフ、そして物語を追うごとに暴かれる一族の闇とは……。
 
 

カルマが臨界点突破 登場人物みんな闇が深い

 
友人:(3巻あたりを読みながら)あれ、これって「大変大変〜!抱きつかれると動物になっちゃう〜」って話じゃないなって思うようになった。
 
おかん:そうなんです。いやもちろんラブコメ・コメディ要素もあるけど、ベースは暗いです。草摩一族は、昼ドラもビックリなくらい闇が深いんですよ。
 
そもそもの原因は物の怪憑きなんだけど、まず十二支のなかにもヒエラルキーがあるわけ。十二支のはじまりは、昔々、神様が動物を招いて宴を開催したことだといわれていて、会場に一番乗りした鼠は十二支のなかで最も影響力が強い。で、神話では、鼠は牛の背中にくっついて宴の会場まで行き、シレっと一番乗りになったといわれているんですよね。
 
だから丑憑きの少年・潑春(はつはる)なんかは由希のことを恨んでいたりもして。
 

 
憑いている物の怪のせいで、小さい頃から劣等感や差別感を感じてしまっている人間も多い。
 
おかん:しかも十二支に入れなかった猫憑きは、一族のなかで最も蔑まれてます。まあこれは猫憑きに大きな秘密があるからなんだけど。夾の家族は猫憑きを産んだ家として周囲から蔑まれ、心を病んだ母親は死に、父親は育児放棄して「夾さえいなければ」くらいに思っています。
 
友人:それは読んでてめちゃくちゃ辛いシーンだったな〜。
 
おかん:しかも草摩一族は地元の名家。一族経営の会社とか土地とか死ぬほど持ってるわけ。十二支のヒエラルキーに一族の派閥争いが絡んでくるともう大変よ。十二支のなかで最も偉いといわれてる由希ですが、母親は由希のことを権力争いのコマにしか思っておらず、めちゃくちゃネグレクトしてます。
 

 
辰(龍)憑きで、一族の主治医であるはとり。一族に近く透に警鐘を鳴らす。
 
友人:いつ物の怪憑きが生まれるかわかんないから、一族の本家も分家もみんな進学や就職、結婚などに当主の許可が必要になってくるってのもしんどいルールだよね。辰(龍)憑きは、恋人と壮絶な別れを経験してるし。仮に許可を得ても、物の怪憑きを産んだ母親がショックで発狂しちゃうとか……。
 

 
一族を束ねる草摩当主・慊人(あきと)。一族の人間はもちろんだが、物の怪憑きの人間はみんな慊人に歪んだ愛情と恨みを抱いている。それは慊人が一族の当主というだけではなく、みんなが逆らえないある「秘密」を抱えているのだが……。
 
友人:そんななか、草摩一族の暗い影を受け入れて、優しく包み込むのが透の存在なんだよね。己と葛藤する十二支たちの傷を同じ立場に立って悲しんだりしながら「大丈夫ですよ」と癒してくれる彼女の存在が聖母すぎて。自分に投影して「めっちゃ励まされてる!!がんばる!!」みたいな気持ちになりましたね〜。
 

 

 例えば人の素敵というものがオニギリの梅干しのようなものだとしたら、その梅干しは背中についているかもしれません…世界中の誰の背中にも、色々な形、色々な色や味の梅干しがついていて、でも背中についているせいでせっかくの梅干しが見えないだけかもしれません。
「自分には何もない。真っ白なお米だけ」。
そんなことないのに、背中には、ちゃんと梅干しがついているのに…誰かを羨ましいと思うのは、他人の梅干しなら、よく見えるからかもしれませんね。
私にも見えます。ちゃんと見えてます。キョウくんの背中にある立派な梅干し。

(2巻58-59pより引用)

 
物語がひとつ山場をむかえるたび、自己肯定感をあげてくれる透の言葉に胸打たれた人も多いはず。
 
おかんただ、そんな透も諸手をあげての善人かといわれると決してそうではないんですよね。ヒロインを含めて、登場人物が基本的にダークサイドに堕ちている&堕ちたことがある。けっして綺麗事だけじゃ生きていけないってことを思い知らせてくる。フルバの良さってそこだと思っていて。
 
彼女自身も愛する母親を亡くしていて、それより以前には父親も亡くしてしまっている。この「時間差の親の死」が彼女のキャラクターに深い楔を打ち込んでいるんだけど、物語が進むにつれて、癒す側だった透も自分自身の闇に向き合わないといけなくなってくるっていう。
 

 
十二支はもちろん、物語の重要なサブキャラである透の親友・魚谷ありさと花島咲。彼女たちも荒れた過去を背負っていたり人を傷つけてしまっていたり悲しい過去を持つ。
 
友人:コメディパートが面白すぎるのと、諸所で少女漫画らしい胸キュンパートがあるからスルスル読めた。
 

 
ズーンとなるシーンも多いフルバですが、コメディ部分の言葉遣い・テンポ・畳み掛け方は秀逸で普通に声出して笑うレベル。
 
 

トラウマと戦う若者たちの足掻きが”人としての生き方”を教えてくれる

 
おかん:『フルバ』がどうして多くの人から愛されてるかっていうと……ジョジョ(『ジョジョの奇妙な冒険』)ではないけど、人間賛歌の作品だからだと思うんですよね。血脈に長く絡みつく物の怪憑きとしての業とか、ともすれば一族や家族の”絆”が呪いとイコールになって自分自身に降りかかってくる。
 

 
みんなそれぞれ少なからずトラウマを抱えているんだけど、触れ合ったりぶつかったり反発したりを繰り返しながら、トラウマにきちんと向き合って戦うようになる。その足掻きが”人としての生き方”を教えてくれるというか……。
 
友人:とくに、少女漫画のターゲットって思春期真っ只中じゃないですか。家庭環境に悩む子もいるだろうし、好きな人や交友関係に悩んだり、将来を考えて苦しくなることもある。多感な時期だからこそ自分を取り巻くいろんな問題が際立ってきたりして。そのとき『フルバ』のなかに、自分を救う言葉が載っているんでしょうね。
 

 
おかん:草摩一族や透の抱える闇が露呈してからはほぼ毎回が泣けるターン。自分自身のトラウマを他者のせいにしたり、それに固執したり、あるいは見て見ぬ振りをしたり、一族の呪いからひたすら逃げていたキャラクター自身が、呪いに反旗を翻して「自分は自分らしく生きていていいんだ」「こんな自分でも堂々と人を愛することができるんだ」と気づいていく瞬間の連続がね、もうね、ううッ……。
 
友人:記事の途中で泣くのやめて。
 
 

漫画史に残る感動の大円団

 
おかん:『フルバ』は登場人物がかなり多いし、全員闇や秘密を抱えているし、終わらせるにはかなりの風呂敷が必要なわけだけど、高屋先生はすごいよね。全員を綺麗さっぱり光のもとに連れ出して、いろんな意味で憑き物を落としてる。
 
完璧なまでに大風呂敷をきれいさっぱりまるっと畳み掛けてくるこの爽快感。終盤の展開もあいまって、『フルバ』の完結はマジで漫画史に残る大円団だと思う。荒川弘先生の『鋼の錬金術師』、藤田和日郎先生の『からくりサーカス』を含めて私はこの3作を「三大風呂敷回収漫画」と呼んでいます。
 
友人:巻数がいかんせん多いから、手を出すのにためらう気持ちがある人もいるだろうけど、物語の本質が露わになってからは一気読みできる。
 
しかも、脇役にもスポットライトが当たる回が用意されてる、主要キャラクターが小学生〜壮年までと幅広いから、読み返すたびに違うキャラクターに感情移入できそう。もっと早くに読んでおけばよかった……。
 
おかん:そう!!そうなのよ!!何回読んでも大号泣だし、読むたびに新しい感動があるのが『フルバ』の素晴らしいところ。
 
友人:記事の手伝いで読んだけど、これはホントに名作ですわ……。絵も少女漫画のわりにスッキリしてるし、男性でも抵抗なく読めるのもすごくよかった。
 
いかがでしょうか。『フルバ』の素晴らしさを知ってるみなさんは「わかる〜!!」の連続だったろうし、未読の人は「読んでみるか」と少しは思っていただけたんじゃないでしょうか。
 
書こうと思ったら3万字くらいのボリュームになりそうだし、さすがにそれはまんが王国ラボの編集部から怒られるし、なんならアメト●ークよろしく「僕たちは『フルバ』大好き芸人です」と宣言して語り合いたい。
 

まあってか『フルバ』はマジで義務教育レベルの名作だから!!
一家に1セット用意していていい漫画だから!!今年のクリスマスプレゼントは「フルバ全巻」ということで、みなさまよろしくどうぞ!!!

 
 
フルーツバスケット/高屋奈月 白泉社