どうしようもない状況下で、もがく少年少女たち。『神様がうそをつく。』

レビュー

どうするのが正しかったのだろう。作品を読んだ時に、登場人物が取った行動について考えることがしばしばある。行動次第で、より良い未来を得ることができたのではないか、と。
『神様がうそをつく。』という作品でそれを考えた時、どうしようもなさに無力感を覚えてしまう。過酷な状況に追い込まれていた小学生の彼らに、作中以上のことを求めることができないのだ。
だからこそ、どうしようもない状況の中で、それでも今自分にできることをやろうともがく姿が、間違っていたとしても輝いて見えてしまう。

神様がうそをつく。
©尾崎かおり/講談社

弟と2人で暮らす、少女との出会い

夏休みを前に、主人公の七緒なつるは自分の居場所を失っていた。ただ楽しくサッカーをしたかったのに、所属していたサッカーチームに本格的なコーチが入り、明らかにソリが合わない。そんな時、拾った子猫の飼い主を探していたことをきっかけに、同級生の鈴村理生と親しくなっていく。

なつるから見た理生は、大人びていた。いや、大人びていたように見えていた。ただそれは、秘密を抱えているが故に、理生が人を近づけなかったからなのだろう。しかし、なつるはするりと、理生の内側へと入り込んでいく。最初こそ多少の戸惑いを見せた理生だが、すぐになつるに対しては年相応の少女としての姿を見せるようになる。異性に優しくされることに照れたり、子猫を可愛がる姿は、なつると一緒に見惚れてしまうほど魅力的だった。

理生は弟と2人で暮らしている。小学生が2人で暮らしているというのは、もちろん異常なことだ。理生はそれを、世間に隠している。2人を遠くに置いて暮らしている父親が、責められないように。家族がバラバラにならないように。

秘密を明かされたなつるは、誰にも言わないことを約束する。居場所を見失ってフラフラしていたなつるから見て、自立している理生の姿が眩しかったのだろう。理生と関わっていく中で、どこか自分本位なところがあったなつるが、他人と関わって生きることを学んでいく姿が読み取れる。この時期の少年を1番成長させるのは、気になる異性の存在なのかもしれない。

少女に隠された、重すぎる秘密

なつるは最初の秘密である、弟と2人暮らしをしているという秘密を、誰にも言わないと抱え込むことができた。一方で、理生がなつるにも隠したかった秘密を知ってしまった時、彼はその場から逃げ出すことしかできなかった。好きな女の子を置いて。泣いている女の子を置いて。

それを責めることはできない。その秘密は、小学生が抱えるにはあまりにも重すぎるのだ。
かといってなつるは、それを誰かに相談することもできない。理生が守りたかったものを、全て壊すことになってしまうからだ。周りに頼れる大人がおらず、それでも家族を守ろうとした理生の選択を、なつるも否定することはできなかった。

圧倒的などうしようもなさに、打ちひしがれてしまう。少年少女の彼らに、どうすれば良かったかを示すことができない。間違っていることは分かるのに、彼らが守りたかったものを考えた時に、正しい行動を示すことができないのだ。

悪いことだってわかってても それしかできない時って どうしたらいいの!?

母親に、なつるはそう問う。その問いに対する答えが、何回読んでも分からない。作中の少年少女の行動は、決して正解ではない。そもそも、正解がない状況に彼らは追い込まれてしまったのだろう。そんな彼らに、かける言葉が見つからないのがもどかしい。

大人でさえ答えられない問いを抱えて、なつるは理生と彼女の弟を連れて逃げ出すことを決める。長く続かないことを分かっていても、今できることをしようとしたからだろう。
2人の不安と愛しさが入り混じり、涙となって感情が溢れたシーンは、涙の熱さえ伝わってくるほど迫るものがある。
一生懸命もがく彼らの姿に、どうしようもないくらい胸が熱くなった。

まとめ

この作品を読み終えた時、込み上げてくるのは切なさと、愛しさだろう。正解が分からなくても、もがいた少年少女たちの姿に、読む度に心が揺さぶられてしまう。
そんな彼らがいるからこそ、神様も時々うそをつく。愛する人のために、心配させないために、優しく甘いうそをつくのだ。
そんな優しいうそに包まれた世界が、愛おしい。

神様がうそをつく。/尾崎かおり 講談社