もしもタイムスリップして小学生に戻ったら、絶対にやってはいけないこと『無邪気の楽園』

レビュー

無邪気の楽園
©雨蘭/白泉社(ヤングアニマル)

タイムスリップしたい。高校時代や中学に戻りたい。これは誰もが考えることだろうし、それぞれ青春を謳歌した(しかけた、あるいはしようとはしてた)人間にとって、遡りたい時期は異なるはずだ。
私は女の子がたくさんいた、高校時代がいい。いや、でも後悔をたくさん残した中学時代がいいかも。待てよ、結局一番楽しかったのって小学校のときじゃなかったかしら……。
ふえーーーーん! 小学生に戻って何も考えずに運動をしたり、勉強したり、放課後にゲームをしたいよー! 大人らしい忖度なんかしたくないし、なんなら家でNetflix (ネットフリックス) をずっと観ていたい。SNSで炎上も、ブロックもされたくない。「ゴッドタン」の西野と劇団ひとりのバトルをずっと観ていたいーーー!!!! という導入ですが、これから紹介する漫画は、表紙からもわかるように、邪気の存在しない世界、その名も『無邪気の楽園』である!

主人公の省太はフリーのゲームプログラマーで、25歳素人童貞、ほぼニート。小学校であった同窓会に出席した彼は、ひとり、プールサイドでやさぐれながら独り言をぶつくさ言っていると足を滑らせてプールへ落ちてしまう。あわててよじ登ると、彼は小学生に戻っており、周りのみんなも戻っていた。つまりタイムスリップをした。省太の初恋の相手、このみちゃんも子供に戻っているし、さっきまで大人びていた同級生たちもまた、子供に戻った。

子供は子供ゆえに無邪気である。なので、大人なら、はばかるような行為をいとも簡単になってしまう。たとえば、異性がいる前で無防備に服を着替えるだとか、一緒にお風呂にはいったりだとか、お医者さんごっことか……。でも、それは無邪気だから。知識がないから。だんだんと大人になって知識を持つことで世の中のさまざまなことを知ることができたけれど、「何も知らなかったころ」という状態にはほぼ戻らないわけで、時折、あの頃に戻りたいと思うのも、情報過多になってしまった自分たちを省みて、悲しみに暮れているのかもしれない。大人はもう純粋ではないし、純粋であったとしても、どこかに打算や忖度は必ず(無意識下でも)あるのだから。

無邪気なだけに、なんでもやってしまう子供は、精神面が大人になってしまった省太にとってはある意味危険な存在(性的な意味で)。ちょっとしたことが大人の知識と性の知識に結びつくものだから、日常が興奮の連続になってしまうのも無理はない。いや無理はあるか。こいつはロリコンです。

というように、幼少期に戻ったことで経験できる「無邪気さ」との触れ合うことで、方や純粋でなクラスメイト、方や不純な省太という相反する心持ちがクロスオーバーしないままに、物語は進んでいく。ここから先は賢い読者の想像にお任せするとして、もしタイムスリップしたら、無邪気さには敏感にならなければならない。無邪気は邪気がないけれど、それゆえに純粋に行動するため、次に何をするかが想像できない。先読みができない。
もしもあなたに子供ができたとき、日々この無邪気に触れることになると思うのだけれど、この漫画はそういう意味での、教科書としてのパワーも持ち合わせているからお得だ。子供がやりそうなことが描かれているから、親はこの漫画を読みながら、常に先を読むことができる。お得だ。あるいは、『無邪気の楽園』を読みながら、邪気まみれの大人になっちまった自分の無邪気さを思い出すも良し。気を引き締めて反省するもよし。この漫画を読んで、当時の気持ちを再び思い出してほしい。

無邪気の楽園/雨蘭 白泉社(ヤングアニマル)