絶望を経験した全ての人たちに送るラーメン漫画『ラーメン食いてぇ!』

レビュー

日本の国民食、ラーメン。
 
そんなラーメンを題材にして、「もう駄目だ」と思うくらいの絶望を経験したすべての人に送る、ぜひ読んでほしい名作がある。
 
群馬県の小さなラーメン屋の1杯をめぐって、さまざまな人々の「生きる意志」が折り重なるハートフルストーリー、それが『ラーメン食いてぇ!』だ。

ラーメン食いてぇ!
©林明輝/講談社
 

死にかけの美食家・相棒を失った店主・友に裏切られた孫

 
3人の絶望者から物語はスタートする。
 

 
海外ロケの移動中、事故に巻き込まれて、新疆ウイグル自治区のだだっぴろい高原で遭難する美食家・赤星亘(あかほしわたる)。
 

 
類まれな食欲とラーメンへの愛により、絶品スープをつくりあげていた最愛の妻で最高の相棒を亡くしたラーメン屋「清蘭」の店主・紅(コウ)
 

 
1番の親友に彼氏を寝取られ、さらに学校裏サイトの誹謗中傷を書き込まれたことで大きなイジメを受ける紅の孫、茉莉絵(まりえ)。
 
生きる希望を失った3人の心に去来したのは「清蘭」のラーメンの味だった。
 

 
「清蘭」のラーメンを思い出した赤星は意識が途絶えるその刹那、メラメラとその命の灯火を燃やし、日本への帰国を胸に誓う。
 

 
一方日本では、妻を亡くした喪失感から紅が自殺をはかろうとしていた……しかし、孫・茉莉絵の自殺未遂の報によって命をとりとめる。
 

 
命は助かったものの、抜け殻のような茉莉絵。しかし、紅が飲ませてくれた「清蘭」のスープを一口飲んだ時、そこに生きる希望を見出した。
 

 
かくして、「清蘭」の味を受け継ぐべく、茉莉絵のラーメンづくりへの挑戦がはじまるのだった。
 

 
そのころ赤星は、干からびかけてたところを原住民に救われていた……。
 

不器用の一心×とんでもない食いしん坊

 

 
麺打ち、スープの仕込みなど、ラーメンづくりに欠かせない技術を紅から学び、毎日のジョギングや増量(麺打ちに体重が必要らしい)にも積極的に取り組む茉莉絵。
 
しかし食の細い彼女は、やればやるほどにラーメンを見るのも辛くなり、ついには吐き戻してしまう。
 
それでもラーメンづくりを続けようとする茉莉絵に、紅は告げる。
 
幸せな気分でつくるものこそ、本当においしくなるのだと。
 

 
亡くした妻が「類まれな食欲の持ち主」だった。
 
紅の打った麺を、毎日毎日「自分が食べたい!」「最高の出来!」とニマニマしながら調理できる才能こそが「清蘭」のラーメンの味だったのだ。
 

 
絶望する茉莉絵の脳裏に浮かんだのは、茉莉絵を裏切った親友・コジマ。
 
「食べ物をさわってる時が一番幸せ」と豪語する食いしん坊な才能を持つ彼女ならきっと……。
 

 
裏切ったのは許さない、でも、一緒に歩んでくれるなら許してあげる。
 
不器用だけど一心に麺やスープづくりに励む茉莉絵と、自分が「おいしい!」と思う瞬間を見極める究極の食いしんぼう。ふたりの力が重なって日本一のラーメン屋への道がはじまったのだった。
 

 
そのころ赤星は、助けてくれたタジク族と寝食を共にしながら帰国の準備をはじめていた。
 

全てが見事に収束する感動の大円団に涙

 

 
ラーメン一筋で自分に無頓着だった紅の反面教師として茉莉絵を育ててきたのに、ラーメンに執心する娘に納得できない茉莉絵の父。
 

 
「学歴が全て」という固定観念を持ち、娘が大学にも専門学校にも行かず、ラーメン屋になることに断固反対するコジマの母。
 

 
無事帰国し、大きな記者会見がセッティングされるも「清蘭」のラーメン食べたさに会場を抜け出し群馬へと向かう赤星。
 

 
みんなが認める絶品ラーメンを、はたして若いふたりはつくり上げられたのか……。
 
さまざまな人間模様をまるっとまとめた美しく素晴らしい大円団は、ぜひ自分自身の目で確かめてほしい。
 

そりゃ映画にもなるわ!

 
偶然が積み重なって起こるミラクル。目的のためならガムシャラになるキャラクターのコミカルさ。そして伏線を見事なまでに回収しきる脚本の秀逸さ。
 
『ラーメン食いてえ!』は、Webで公開され100万PVを誇ったモンスター作品の単行本化だが、あまりのムービー感に「映画を見ているようだ」とさえ思った。
 
……と思ってたら映画化してた〜!
 
映像化はその作品が魅力的である証拠だからこれ以上はもう語るまい……。
 
泣いて笑って、そしてどうにもこうにもラーメンが食べたくなる名作、必読である!
 
 
ラーメン食いてぇ!/林明輝 講談社