結婚相手を政府が決める世界を描いた『恋と嘘』。必死に恋をする少年たちの究極の恋物語。

レビュー

最近、最後にときめいたのっていつ?
 
なんて聞かれて「余計なお世話だバカヤロー!」と思ってしまうこともあるんじゃないだろうか。いや、単純に筆者がそうなだけなんだけど。
 
でも、真剣に思い返してみると、一つだけ思い当たる節があった。
 
それは『恋と嘘』という、ムサヲさんが描いている漫画作品。

ジャンルを一言で言ってしまえば「高校生同士の恋愛の話」なんだけど、これは「ただの恋愛漫画」じゃない。こんなに惹き込まれて、思わずときめいてしまうラブストーリーに出会えたのは、いつぶりだろうか。
 
これを読んで、ときめかずにいられる人はいるんだろうか。
 
今日は、そんな『恋と嘘』について紹介したい。
 

恋と嘘
©ムサヲ/講談社
 
あなたは結婚する相手が、政府によって完全に決められている世界を想像したことがあるだろうか。
 
少子化が進む社会問題を解決するために制定された「超・少子化対策基本法」によって自由恋愛が禁止されている日本では、遺伝子情報をもとに「最良」だと判断された相手との結婚が義務付けられていた。
 
国民は、満16歳になると「政府通知」によって将来の結婚相手を知らされるが、16歳になるまでは恋愛をすることは許されず、政府が決めた相手以外との恋愛も禁止されている。
 
主人公・根島由佳吏(ねじまゆかり, 男子高校生)は16歳の誕生日の前日、ずっと好きだった高崎美咲(たかさきみさき)に想いを告げ、両思いだったことを知る。
 

 
しかし、誕生日当日に届いた政府通知に記されていた将来の結婚相手は美咲ではなく、「真田莉々奈(さなだりりな)」という少女の名前だった。
 

 
国の取り決めの通り、莉々奈と結婚を前提とした交際をスタートさせた由佳吏だったが、
 
どうしても美咲への想いを断ち切れず……。
 

「切ないラブストーリー」だなんて言葉では表せないほどに、「恋」は切ない。

 
本作は、政府通知の相手・莉々奈と、初恋の相手・美咲の間で揺れ動く少年の恋心を描いた物語である。
 
「切ないラブストーリー」だなんて言葉では表せないほどに、切ない。
 
好きで好きでたまらない相手がいて、しかも両思いだと分かっているのに、その人と一緒にいることが許されない世界。
 
それでも諦められず、懸命に「あなたが好きだ」と伝えようとする主人公の姿には、ついつい共感してしまう。
 
美咲は美咲で、由佳吏の政府通知の相手が自分ではないことにショックを受け、身を引こうとするものの、どうしても由佳吏のことが忘れられず、こっそり2人で会ったりするように。
 
高校生の頃なんて、みんな自然と好きな人ができたり、その人とデートの約束をやっと取り付けて一喜一憂したり、多分、一番楽しい時期のはず……はずなのに。
 
いくら政府の決定だからと言っても、16歳の少年少女にはあんまりにも酷な話だ。
 

好きな人と友達の間でついた切ない「嘘」

 
また、意外なのが、由佳吏・美咲・莉々奈の三角関係を描いている部分もあるけれど、この3人が超仲良しになるところ。
 
もともと莉々奈は、由佳吏とも美咲とも知り合いではなかったんだけれど、政府通知をきっかけに由佳吏と知り合い、美咲とも友達になっちゃう。
 
「由佳吏と美咲の仲を応援したい」という気持ちを強く持っていた莉々奈ではあったものの、一緒に時間を過ごすにつれ、次第に由佳吏のことを好きになっていってしまって。彼女は彼女で、親友である美咲の恋心を知っているからこそ、由佳吏への自分の気持ちを抑えようとして苦しんでしまう。
 
また、美咲は美咲で、莉々奈に対しての罪悪感から自らに「根島くん禁止令」を課し、由佳吏との距離を置こうとする。それでも、5年間ずっと思い続けてきた由佳吏のことを諦めきれなくて……。
 
ヒロインたちの謙虚な姿勢は、思わず地団駄を踏んでしまいそうなほどじれったくて、愛しくて、切なくて、胸がキュンと締め付けられてしまう。
 
三者三様の恋心と、それに伴う苦悩が丁寧に描かれていて、「本当によくできているなあ〜」なんて感心してしまうほど。キュンキュンしたり、切ない気持ちになったり、感情の変化に忙しいけれど、それでもページをめくるのをやめられない。
 
まさか、20代後半になって、こんなに恋愛漫画にハマってしまうなんて思わなかった……。
 
読み進めていくにつれ、1人1人のキャラクターに愛着が沸いてしまうこの作品。それは、誰もが経験したことのある恋愛の「切なさ」に強く共感できるからなのかもしれない。
 
大人たちが決めた仕組みと、感情との狭間で苦しみ、必死にもがく少年少女の物語。
 
「こういったピュアな気持ちは、何歳になっても忘れないでいたいな〜」と思わせられる。
 
 
恋と嘘/ムサヲ 講談社