「死にたい」と思って1度本当に死んでしまった絵描きは、なぜ再び生きようと思ったのか。『死んで生き返りましたれぽ』

レビュー

あなたには「死にたい」と思ったことがあるだろうか。

「明日テストなのに勉強しないで寝落ちしてしまった」
「就活で内定がでない」
「仕事でとんでもないミスをした」
「人間関係が下手すぎて生きていける気がしない」

軽いものから切羽詰まったものまで「死にたい」と呟いたことがある人は多いはずだ。
そして、『死んで生き返りましたれぽ』の作者・村上竹尾先生も、そんな「死にたい」と思っていたひとりだった。

ただ、村上先生が他の人と違うのは、1度リアルに「死んだ」ところだ。

死んで生き返りましたれぽ
©村上竹尾/双葉社

本作は、村上先生が実際に心肺停止してから退院できた日までを描いた、2ヶ月間の闘病記録である。

心臓が止まってから、意識が戻るまで

村上先生はフリーランスの絵描きだ。仕事の締め切りに追われ、体調不良が続く、ハードな生活を送っていた。
そんなある日、とうとう限界を迎えた村上さんは自宅で倒れ、意識不明となる。

次に目を覚ました時、村上先生はICU(集中治療室)にいた。自分の事も分からず、しゃべることもろくにできない。

この時、村上先生は9つの重病を併発しており、いつ死んでもおかしくない状態だった。

奇跡的に意識を取り戻したあとも、突然昏睡状態になったり、幼児退行のような状態になったり、幻覚に苦しめられたり、たくさんの症状が村上さんを襲う。

「死ぬ」直前の追い詰められた生活

本編の途中で、村上先生が「死ぬ」原因にもなった生活について触れている部分がある。

村上先生の仕事は、絵描きだ。
睡眠も食事も外出もろくにできず、心身ともに追いつめられている様子が、暗いトーンで描かれる。

村上先生の不摂生の根底には、村上先生自身の自信のなさや、うまく溶け込めなかった社会に対する諦めの気持ちがあった。

絵描きにも「絵」以外の価値はある

「(絵を)仕事にできたのもうれしかった。でも、普通に学校に行ったり、勤めたり、人と関わったりするのは自分には難しくて、その結果がこれなら逃げでしかないのではと思って」

本作では「死にたい」と思っていた村上さんが、皮肉にも死にかけたことによって、入院中、今まで聞こえていなかった身近な人の声に救われるシーンがいくつもある。

自分が想像している以上に、その人自身を応援してくれる人や心配してくれる人はたくさんいる。

私も絵を仕事にしようとしているので、仕事や制作にがむしゃらになる時間が長く、つい、他人のことを忘れそうな時がある。

ただ、活動を続けて思うのが、絵のみで生きていくのはやっぱり難しいということだ。絵の仕事は、体調がどんなに悪くても、会社員のように仕事を代わってくれる人がいなかったり、労働時間が決まっていなかったり、収入が不安定だったりする。不安定な仕事だからこそ、他人の助けが不可欠なのだなと日々実感する。

『死んで生き返りましたれぽ』は、いま目標に向かってなにかに取り組んでいる方、また、うまく結果が出なくて苦しんでいたりする方に特に読んでいただきたい。ほんの少しでも人生の救いになればいいなと思う。

死んで生き返りましたれぽ/村上竹尾 双葉社