大人が全力で遊んで何が悪い。女1人、男2人のルームシェアコメディ『カテゴリ・テリトリ』

レビュー

山東ユカ先生は、アニメ化もされた『スパロウズホテル』など、ブラックジョークを交えたギャグ4コマの名手として知られている。一筋縄ではいかないキャラクターたちが織りなす会話劇は、一度読んだら癖になること間違いなし。
 
なかでも本作『カテゴリ・テリトリ』は、山東ユカ先生のセンスがいかんなく発揮された傑作。

女1人、男2人がルームシェアをするという際どい設定ながら、終始ギャグテイストで進んでいくストーリーが爽快で、ページをめくる手が止まらなくなる。自分もこんなキャラクターたちと暮らしてみたい、と思わせる魅力にあふれているのだ。
 

カテゴリ・テリトリ
©山東ユカ/少年画報社
 

我ら3人、ここに兄弟(ルームシェア)の契りを結ばん

1DKのアパートで暮らすフリーター・弥生理々子(やよい・りりこ)。20歳とは思えない酒癖の悪さが災いして、見知らぬ男性2人とルームシェアをする羽目になってしまう。
 
1人目は、売れないお笑い芸人の桃山一樹(ももやま・かずき)。職業柄、ツッコミは冴えているが、ボケの方はさっぱり。
 
もう1人は、大学生の安土雄高(あづち・ゆたか)。いかつい風貌に反して中身は意外とピュアな、平成生まれの昭和系男子。
 

 
何の接点もなさそうな理々子たちが、どういった経緯で出会ったのかは、物語の終盤まで明かされない。
 
というより、その部分はストーリー的にもさほど重要ではない。細かいことは気にせず、年齢も性別も価値観もバラバラな3人の、奇妙な絆で結ばれた共同生活を楽しむ作品だ。
 

 

理々子は危なっかしいからな(文字通りの意味で)

男女3人がひとつ屋根の下。今にも修羅場が始まりそうなシチュエーションだが、本作では「そういった」事件はまったく起こらない。
 
なぜなら、理々子の性格があまりにも残念すぎるから。黙っていれば美人なのに、口を開くと問題発言ばかり。
 

 
なので、理々子の親友である黛あすか(まゆずみ・あすか)も、同居している桃山たちを警戒するどころか、むしろ礼を言っている。理々子は危なっかしいから、誰かが一緒にいてくれると助かると。
 
ドジっ子だとか、小悪魔的な魅力があるとか、そんなかわいい意味ではなく、本当に危なっかしい。ひとりにしたら、何をしでかすか分からない。
 

 
庇護欲をそそられるというより、純粋にハラハラして目が離せない。彼女を恋愛対象と考えるには、相当な覚悟が必要だろう。

最後に思いきり遊んだのって、いつだろう?

理々子は、良くも悪くも「共感できる」タイプのキャラクターではない。むしろ逆。
 
セクハラ上司をグーで殴って退職して、フリーターになる。美容院に行くお金がもったいないからと自分で髪を切ろうとして、大失敗する。子ども相手に本気で雪合戦をして、風邪を引く。もうちょっと後先考えて生きろよ……とツッコみたくなる。
 
なのに、不思議と憎めない。それは、理々子が何に対しても全力で、自分に嘘をついていないから。
 
「恋人」としては少し、いやかなり厳しいが、「友達」としてなら、こんなに清々しい気分になれる相手はいない。だからこそ桃山も安土も、彼女とのルームシェアを続けているのだろう。
 

 
理々子に対する気持ちは、彼女の学生時代からの友人である、あすかも同じ。
 
彼女には他者を寄せつけない独特のオーラがあるが、人付き合いが嫌いなわけではない。ただ、自分が好きでもない人と付き合うのが嫌いなだけ。
 
だから、理々子といるのはすごく楽しい。やりたいことだけやって、会いたい人とだけ会う。何の裏表もなく自分と接してくれる理々子と過ごす時間は、たまらなく心地いい。
 
会社の送別会をブッチして、理々子たちとのパーティに参加したあすかが心の中でつぶやいた「……楽しいな」の一言は、本作を読んだ読者の気持ちでもある。
 

 
誤解のないように補足しておくと、別に理々子のような行き当たりばったりの生き方を推奨しているわけではない。少しくらい嫌な思いをしても、安定した仕事と収入があるのであれば、それに越したことはない。
 
けれど、そんな今の生活にどうしても疲れてしまったときは、息抜き代わりに本作を読んでほしい。
 
明日のことなんか考えず、気の置けない仲間と夜が明けるまで全力で遊んでいたあのころのような、「青春」の匂いがこの作品にはある。
 
 
カテゴリ・テリトリ/山東ユカ 少年画報社