変人オタク・ヤマザキマリ流の伝記漫画がわかり易くて面白い!『スティーブ・ジョブズ』

レビュー

スティーブ・ジョブズ
©ヤマザキマリ/講談社

ヤマザキマリと言えば、古代ローマと日本の温泉をテーマにしたコメディ『テルマエ・ロマエ』が有名だ。

彼女は「変人」のことが大好きだ。
テレビ番組「アナザースカイ」に出演した際にも『プリニウス(『博物誌』を著した古代ローマの博物学者でかなりの変人らしい。彼女はプリニウスを題材とした歴史漫画を連載していた。)』の紹介をする際に鼻息が荒くなっていた。
変人とは字のごとく変な人のことだが、たしかにプリニウスはローマ時代山が噴火した時に人々が逃げる中、ただ一人噴火した山に向かって走り出すなど知的好奇心で周りが見えなくなる「知るため」には手段を選ばない変わり者だった。

そしてヤマザキマリ先生自身、14歳で一人ヨーロッパへお遣いに出され、それがきっかけで画家を目指し今ではイタリアに住み漫画を描いている好奇心の塊みたいな女性だ。(彼女のエッセイは旅で培った知見と読書により育んだ教養に富んでいてとても面白い)

そんな彼女が描いた『スティーブ・ジョブズ』。iPodやiPhoneを生み出したアップル社の設立者の一人であり、ジョブズ自身が要請して執筆された伝記を漫画化。スティーブ・ジョブズ、たしかに彼はとても変人であった。
アップル社製品を使用している人全員に読んでほしいのはもちろん、ビジネスをしている人にもオススメしたい作品だ。

まさかの超嫌われ者、スティーブ・ジョブズ

この本を読むまで、ジョブズはアップル社のCEOで、プレゼンがスマートでいつもタートルネックの紳士だと思っていた。(ちなみに、タートルネックの理由も作中に出てくる)
まさか、彼が超のつく俺様主義な人間だとは知らなかった。生い立ちも関係しているのだが、彼は自分が信じたものしか受け入れない。もっと言うと自分しか信じない。自分のやり方と違うものは一切排除する、そんな人間だ。

読み始めて開始10数ページ、いきなりジョブズが上司として、また人として模範になるような人間ではないことを知る。

たしかに求人広告を見ただけでアポもなく、いきなり裸足で「雇ってくれるまで帰らない」と乗り込んできたり(しかもベジタリアンという理由でお風呂に入らず異臭を放ちながら)

なんとか雇ってもらった会社で製造されている機械に対して「こんな機械作る奴は大バカ野郎だ」と言い放ち、注意をされると

やれることができていればいいだろうと一蹴したり……。ああ、同僚にしたくない……。

歳を取ってもこの様子。もう、ここまでいくと1周廻ってかっこいい気がしてくる。

自分勝手で俺様主義、先輩だろうが上司だろうが臆さない。超マイペースで面倒臭い奴。
しかしジョブズはただのイヤな奴ではない。超天才なイヤな奴なのだ。

ジョブズの思想がよくわかる第三者視点

伝記の筆者ウォルターが18ヶ月間ジョブズを取材し、またジョブズの発言の裏取りと肉付けをするために100人以上に話を聞いている。多方面からジョブズという人間を見つめ直しているのだ。

人文科学と自然科学の交差点
アートとテクノロジーの交差点
テクノロジーとリベラルアーツの交差点

度々出てくるこの表現。ジョブズは常に文系と理系のバランスを取り自分が欲しいと思うものを実現させてきた。例えば第1巻では自由気ままに出席していた授業のひとつ、カリグラフィーの授業で、

そのようにジョブズがどのような思想で行動をしていたか、わかりやすく知ることができる。
そして一般人とは並外れた思考の持ち主のジョブズにチームが順応していく様子は、柔軟な働き方を示す仕事論だったりもする。

(このTシャツには笑いながらもゾッとしたが……。)

また経営者としての苦しみもこの漫画の見所だ。ジョブズがアップル社を解任された後(それも驚きだったが)業績不振に追い込まれたアップル社に舞い戻り復活させていく革新的アイデア、行動力、信念に天才ゆえに変人
に見えてしまうことがわかる。

1巻の「あとがきにかえて ヤマザキマリインタビュー」によると、ヤマザキマリ先生は実は漫画化の依頼を、ジョブズにシンパシーを感じないという理由で1度保留にしていたそうだ。しかし周りの人の意見があり自ら自伝をもう一度読み考えが変わる。「私の周りにいる人とジョブズの偏屈っぷりが似ていたんですよね。」「私は素敵な社内恋愛や学園恋愛モノを描けって言われても無理だと思うのですけど、でも、変人なら描けますっていう(笑)」と語る。

偏屈で変人だから漫画化されるとは……しかしジョブズという男、読めば読むほどイヤな奴だけれど、自分を曲げることなく天才的発想で世界を変えていく姿に周りの人々は惹きつけられていく。読んでいると、次は何を言い出すんだろうとワクワクしていることに気づく。つくづく不思議な人だ。

同インタビューでは、ヤマザキマリ先生がこの作品
を「変人に対する寛容性を広げるべく、」描いているということも語られている。

ぜひスティーブ・ジョブズという変人の人生を読んでほしい。そして、そのエッセンスを取り入れ、日々の生活に活かしてほしい。

スティーブ・ジョブズ/ヤマザキマリ 講談社