ファンなら絶対に読んでおくべき冨樫義博の不朽の名作『レベルE』を知っているか?

レビュー

冨樫義博、という天才漫画家を知らない人はほとんどいないだろう。
 
大人気漫画『幽☆遊☆白書』『HUNTER×HUNTER』を手がけた作者であり、少年漫画界の歴史に残る、超有名な漫画家である。
 
しかし、彼の描いた作品で、(小学生のときに『HUNTER×HUNTER』の連載が始まった筆者の世代では)意外と広く知られていない名作が存在する。決して「面白くないから知られていない」というわけではないのだ。「めちゃくちゃに面白いのに、なぜか知名度がそこまで高くない」のだ。
 
それが、冨樫先生があの名作『幽☆遊☆白書』の連載終了後に手がけた『レベルE』という作品だ。

 

レベルE
©冨樫義博 1995‐1997年
 

冨樫先生が描くSFストーリー

 
地球には、現在数百種類の異星人が暮らしている。
 
そして、そのことに気が付いていないのは地球人だけであった。
 

 
高校進学をきっかけに山形で一人暮らしをすることになった筒井雪隆(つつい ゆきたか)は、自分が住むはずの新居に勝手に住み着いている男に出会う。
 

 
雪隆は戸惑いつつも男を追い出そうとするが、男は「自分は宇宙船に乗ってやってきた宇宙人だ」と言う。しかも、記憶をなくしているのだ、とも。宇宙人であることを信じているわけではないが、行き場がない男を追い出すこともできず、雪隆は仕方なく彼を家に置くことに。
 
この男の正体は、ドグラ星の王子(作中では『バカ王子』と呼ばれる)。全宇宙規模の会議に参加するために移動する最中、地球にやってきたのだ。
 
『レベルE』は、バカ王子を発端に次々と起こる、宇宙人にまつわる事件やトラブルを描いたSF漫画である。
 

キャラクター設定の妙

 

 
バカ王子は「宇宙一の天才」と称されるほどの頭脳を持つが、その性格は最悪であり、「民衆の支持を下げずにいかに苦しめるか」という意地悪やイタズラに日々いそしんでいる。
 
少年漫画で主人公がめっちゃ性格悪いって、なかなかなくないですか?
 
普通、天才的な頭脳を持つ王子って、世界平和のために尽力してたりしません?
 
とはいえ、そんな王子の性格の悪さこそ、冨樫先生のキャラクター設定の妙。
 

 
彼の自由奔放な振る舞いによって、地球人も異星人もひっくるめて大勢の人が巻き込まれる事件が度々起こる。でもたまに、その素行の悪さが祟ってバカ王子自らが痛い目に合うこともある。
 
そのドタバタコメディー感(SF漫画なのに)が、私が『レベルE』を愛してやまない理由の一つである。
 

ストーリー展開のおもしろさ

 
『レベルE』は全16話で、短編のストーリーが展開されていく。基本的には主人公のバカ王子を軸にストーリーが進んでいくのだが、周囲の魅力的なキャラクターたちが代わる代わる、物語を動かしていく。
 
物語の序盤、雪隆は記憶喪失のバカ王子を家で匿うが、行方不明のバカ王子を捜索する護衛のドグラ星人、宇宙人の生体を研究している人間たちからその身を追われることになる。
 
はじめはバカ王子を信用していなかった雪隆だが、彼が5階から飛び降りても無傷だったこと、交通事故に遭った際には青色の血が出ていたことなどから、次第にバカ王子が宇宙人であることを信じ、ことの重大さに気がつき始めるのだった。
 
しかしそんな雪隆の心配をよそに、バカ王子は一人で街までショッピングに出かけてしまったりする。どんだけ自由やねん。
 
しかも、雪隆たちがようやくバカ王子を見つけたときには「女性に絡んでいたチンピラを一人殺してしまった」と言う。
 
さらに、王子の側近がチンピラの遺体を確認したところ、とんでもないことが発覚する。バカ王子が殺してしまったのは、宇宙有数の戦闘種族である「ディスクン星人」で、彼らが今までに滅ぼした種族の数は3桁を超えるという、超危険な宇宙人だったのだ。そう、宇宙戦争の危機である。
 
こうして、ディスクン星人からも身を隠さなければならなくなったバカ王子だったが、実はこの事件、ある秘密が隠されていて……。
 

 
『レベルE』は1995年〜1997年に『週刊少年ジャンプ』にて連載された作品で、同誌としては異例の月イチ連載だった。この背景には冨樫先生の「アシスタントに頼らずに作品を描いたらどうなるか試したい」という実験的な試みがあったのだが、この作品が面白い理由は、そこにもあるんじゃないかと思っている。
 

 
『レベルE』は月イチ連載ということもあってか、一話一話の作り込み(ストーリーしかり、絵の描き込みしかり)が異様に高いのだ。
 
また、前後の話との関連が薄いオムニバス形式で物語が紡がれていくため、「冨樫先生がそのときそのときで描きたいことを描いている」感が強い。ギャグ・SF・ホラーにどんどん挑戦することで自分の可能性を探求しているようで、良い意味で遊び心が満載なのだ。
 

自信を持ってオススメできる作品

 

 
私は子どもの頃から冨樫先生の作品が大好きで、『幽☆遊☆白書』とともに人生を歩んできた、と言ってもいいほどのファンである。
 
しかし、大人になって『レベルE』に出会ったとき「この世にこれほど面白い作品がまだあったのか」と大いに感動した。そして、今までこの作品を読んでいなかったことを後悔した。漫画の随所に「冨樫先生らしさ」を感じることができ、新しい発見をしたような、すごく嬉しい気分になったのも覚えている。
 
冨樫先生のファンにも、そうでない人にも、この作品がもっと広く読まれてほしいな〜。きっと、何かしら衝撃を受けるに違いないと思うから。
 
 
レベルE/冨樫義博 集英社