古寺で年上女子と胸キュン同居生活!『猫のお寺の知恩さん』

レビュー

全国の年上のお姉さんとドキワク同居生活を送りたい協会会員のみなさまお元気ですか〜!?私は元気で〜〜〜す!!

「年上美女×年下男子」……それはマンガ界にとって外せない鉄板テーマ。

『らんま1/2』の天道 かすみさん、『3月のライオン』の川本 あかりさん、『八雲さんは餌づけがしたい。』の八雲 柊子さん……。

時代や掲載媒体を越えて、今までさまざまな麗しいお姉さま方が年下男子を癒し、ひいてはその向こうにいる読者を虜にしてきた。

近年では『乙嫁語り』のアミルさんのような海外勢(?)もその名を轟かせている。

そんな魅力溢れる年上美女界のなかでいま最もイチオシなのが『猫のお寺の知恩さん』のヒロイン、古寺澤 知恩(こてらさわ ちおん)さんなのだ。

猫のお寺の知恩さん
©オジロマコト/小学館

ババくさヒロインに胸キュン

地元を離れ田舎の高校に進学した主人公の須田 源は親戚の古寺で下宿することに。

下宿先にはお寺の娘、再従姉の知恩さんが住んでいた。

気だてが良くて家事全般も得意、年上ゆえの頼りがいもあるのに妙に抜けたところがある知恩さん。彼女の無防備が産むラッキースケベに思春期の源はモヤモヤ……。

と、ストーリーだけで言えば、THE王道な典型的ラブコメ。ただ他のラブコメと大きく違うのは、知恩さんがマドンナらしからぬババくささを持っていること。

知恩さんはこれでも19歳。ピッチピチの乙女が着込むにはあまりに実用性重視すぎでは。

うむ……。

だが……それがいい!!

『ルパン三世』の峰不二子ちゃんのように、いかにもセクシーさを全面に押し出した女性はもちろん素敵だけど、無頓着そうな女性がふとした瞬間に見せるちょいエロもまた素敵だとは思いませんか。

野良仕事で泥だらけになったジャージを脱ぎ捨てる知恩さん。粗品の手ぬぐいという野暮ったさに、汗で髪の毛が張りついた首筋と脇の下のこの……コントラスト!

たとえば不二子ちゃんが大輪の薔薇なら知恩さんは路傍のスミレ。峰不二子ちゃんの惜しげもなく晒される胸がスポットライトだとするならば、縁側で昼寝する知恩さんのしどけない太ももは植え込みの蔭。ババくささと女性らしさの曖昧な領域で際立つ美しさ。
まさにヒロイン界の陰翳礼賛。それが知恩さん。

ちなみにこの後、まだ源がいないときのクセで、ジャージのズボンまで洗濯機に放り込んだがために下半身パンツ一丁で高校生男子の前に表れるというセクシーうっかりを繰り出し、源をモンモンとさせてしまう。

しかもババルックの下の笑顔はめちゃんこかわいいんだ……。

忠実なパースと生っぽい描写が魅せるリアル

いやいやしかし、王道ラブコンなんて、所詮はマンガのなかのドリームでしょ……なんて思うなかれ。『猫のお寺の〜』は、実在するのでは?感が他のマンガと比べて高い。

それはきっとオジロマコト先生の描写がかなりリアルだから。

だいたい6.5頭身くらいの現実に近い人物パース、デフォルメされていない胸や腰つきのプロポーション。いわゆる“二次元的”な表現がすごく少ないのだ。

背景の細かな描き込みもかなり現実に寄せてきている。土間の洗濯機(しかも二層式!)の下にコンクリブロックを噛ませていたり、傘立てが単純な筒じゃなく、いかにも寺にありそうな陶器製だったり。

源が入部した剣道部の小手を、針金ハンガーを曲げてつくったフックに引っ掛けてるあたりなんて、ものすごく現実的!

隅々の表現まで現実に寄せた描き込みがフィクションさを希薄にしている。
読み進めるうちに、なんだか近所で繰り広げられている小さなドタバタを覗き見しているような気分に……。

ナデナデしたくなる 癒しの猫&犬たち

また作中には、タイトルに違わずたくさんのネコたちが登場するのも読んでいて楽しいところ。

源と知恩さんのドキドキライフをまったく気にとめず、のほほんと暮らすさまに癒される。

特に説明はないけれど、寺の中に入り浸ってる猫のなかには耳の先をカットされた猫も。これは野良時代に避妊・去勢手術を受けた「地域猫」の証。
本当に細かいところまで設定しているなぁ……!

「噛んだろか」顔で源の命令をすべてやり過ごす柴犬のテン。もっすもすで可愛い。
彼が言うことを聞かずじゃれついたことが、ふたりの距離を縮めることになったりして。
 

「縁側ラブコメ」という新しいジャンル

この作品は「ソワソワ縁側ラブコメ」と公式では表現されている。
なるほど言い得て妙すぎるなぁ、と読んでいて思うことだろう。

古めかしいお寺や、田舎ののどかな町で連なっていく源と知恩さんの日常はじつに自然豊か。桜や紫陽花、季節の花々がさまざまなシーンに彩りを添え、寺の広間に落ちる陽光から、畑の野菜のみずみずしさまで鮮やかに描かれている。
先述した描き込みのリアルさは、季節のにおいまで表現するよう。

大きな波乱や混乱がなく、小さなドキドキが生活のエッセンスになって展開していくストーリーは「縁側ラブコメ」という言葉はまさにピッタリ。

物語は源が高校入学を控える春休みからスタートし、新緑の時期から夏へと季節が変わっていく。新生活のスタートを迎え、また新しい初夏から夏へと変わりゆくいまの時期こそぜひ読みはじめれば、まるでふたりの生活に並走するような気分で読み進めることができるかも。

猫のお寺の知恩さん/オジロマコト 小学館