この素晴らしくくだらない日常を愛したい。考えずに感じて欲しい漫画『CITY』

レビュー

隣に住んでいる人と話したことがない。
 
転居先は一人暮らし、地元以外で気軽に遊べる友達もいない。
 
子どもが知らない大人に話しかけられると少し不安になってしまう……。

地域社会のつながりや、街のコミュニティが昔ほど強固なものではなくなってきた現代。
 
住民が仲良く住める、あたたかな街なみはとても貴重なものとなってしまったのかもしれない。
 
それでも、漫画の中では理想が描ける。
 
「こんな街に住んだら毎日きっとハッピーだな。」なんて思えるような、ゆるくほがらかに、ユーモアもあっていきいきした日常を描いた世界はここにある。個性的なキャラクターの日常を描いた漫画『日常』の作者、あらゐけいいちさんが描く『CITY』を紹介したいと思う。
 

CITY
©Keiichi Arawi/講談社
 

 魅力的な登場人物はツッコミどころ満載

 
『CITY』は女子大学生の南雲美鳥(なぐもみどり)が住む普通の街の日常生活を描く物語。
 
「日常」「普通」と聞くと、ほのぼの系漫画を思い浮かべるかもしれないが、本作ではそこかしこにシュールなあらゐ節が炸裂しているのだ。
 

 
まず、主人公の南雲の設定が独特。趣味の競馬で持ち金をスッては家賃を滞納し、大家さんから逃げている。なんだその主人公。
 

 
南雲の大学の後輩である新倉(にーくら)がまたいい。だめだめ女子大生南雲に金をせびられては、かたくなに拒む意志の強い女の子。
 

 
南雲のボケにハリセンを使った古典的ツッコミをいれる様は見ていてほほえましい。
 
先輩がボケたら、すかさずツッコんでくれる後輩。こういう関係性っていいよね。
 
ちなみに二人が通う大学の名前はモンブラン大学。南雲はモンブラン学部モンブラン学科にて学問を学んでいるらしい。どこまでもシュールが続く。
 
『CITY』には他にも、魅力的な登場人物が沢山登場する。
 

 
たとえば、こちらの警察官。
 
自分のことを「本官」と呼ぶのはいいが、愛称もそのまま「本官」さん。
 
本名はまったく出てこないというシュール加減。
 

 
安達太良(あだたら)博士は町内にある酒屋「酒の安達太良」に住む博士。
 
自分の店の周辺に防犯カメラを仕掛けては、日々その様子を楽しんでいる。
 
現在、4巻時点で50名強のキャラクターが登場しているのでお気に入りのキャラクターを見つけるのも楽しいかもしれない。
 

小さなハプニングがそこかしこで起こる普通の街

 

 
シュールなギャグと可愛らしいキャラクターデザインが特徴的な『CITY』。
 
もちろんフィクションなのだが、自分の住む隣町にある風景を描いているのでは?と感じてしまう親しみやすさがある。
 
例えばストーリーが進むにつれ、主人公が次々に出会う人物たち。実は彼らが家族同士だったことがわかる描写があったり、そうした「こういうこと、日常生活でもある〜!!」という小さな共感の重なりが、親しみを持てる理由なのだと思う。
 
『CITY』は決して感情の波が押し寄せてくるようなドラマチックな漫画ではない。
 
社会問題を描き出し、読者に対して何か重たいテーマを問いかけるような作品でもない。
 
ただシンプルに、疲れたときにページを開き、小さな町の当たり前の営みに心を預ければ、きっとあなたの現実の日常に癒しをの時間与えてくれるはずだ。
 
 
CITY/あらゐけいいち 講談社