あなたの服選びはどのタイプ? ファッション×女の群像劇『あたらしいひふ』

レビュー

服はその人の人となりを表す重要なツールだ。
 
ゆる巻きパーマにパフスリーブのブラウスにフレアスカート__ なんて出で立ちの人は「女性らしさ」が印象づけられるし、
 
パタゴニアのウインドブレーカーにKEENのサンダルを履く人を見ると「アウトドア系なのかな」と思ったりする。

人となりを表すからこそ「自己主張としての自分」と「他者から見た自分」をどういうバランスで服に落とし込むかが重要なわけで。
 
今回ご紹介するのは、服装をめぐる4人の女性たちが織りなすオムニバスストーリー『あたらしいひふ』。服に悩んだことのある全ての人が共感できる作品だ。
 

あたらしいひふ
©高野雀/祥伝社フィールコミックス
 

モノトーンしか着ない高橋さん

 

 
とある会社のシステム部で働く高橋さん。
 
服に興味がない彼女は、黒しか着ない。
 
「女の子だから服を気にしてみたら」と言われてさまざまな服を試着してみたものの、柄物も色モノもなんだかどれも野暮ったくて挫折。
 

 
同じ会社のデザイン部に務める渡辺さんは、雑誌『装苑』に載ってそうなカッコいい服をカッコよく着こなしていて……。
 
「体を覆うもの」以外に服の価値を見出したことがない高橋さんは「服に意味を見出す」渡辺さんのことが羨ましくてたまらない。
 

服で自分のコンプレックスを隠す渡辺さん


 
そんなオシャレな渡辺さんは、じつは自分の身体へのコンプレックスをたくさん抱えている。
 
「もっと目が大きかったら」「骨格が華奢だったら」、そんな悩みを覆い隠してくれるのが彼女にとっての服だったのだ。
 

 
カッコいい服を着ることで、自分の欠点を打ち消す。無個性な服や制服など、周りと同じがゆえに自分の冴えなさが浮かび上がる服は大嫌いなのだ。
 

 
だから、彼女は受付嬢の鈴木さんのような「無難」なファッションを着こなせる人の気持ちがわからないし、少しうらやましい。
 
「どうして、そんな無難な服を」と心の中でつぶやくのは、「無難な服」が似合う人への嫉妬からだ。
 

平均点であることが悩みの鈴木さん


 
そんな、無難なモテファッションを着こなす鈴木さんにも悩みはある。
 
「渡辺さんみたいな服はモテない」「鈴木さんみたいな『フツーなかんじ』のほうがいいじゃない」と、同じ受付嬢に言われて生ぬるい返事しかできない。
 

 
だって、体格も、肌の色も、手足の長さも全て平均点の自分は、個性的な服装が似合わないから。
 

 
だから彼女は、会社のTPOなんて全部無視して、肩出し・ヘソ出し・ゴテゴテのネイルを身につけるシステム部のアルバイト、田中さんのことがちょっと羨ましい。
 

「かわいい」で武装するしかない田中さん

 

 
ゴリゴリのギャルファッションがうりの田中さんも、さまざまな葛藤や諦めを経ていまの服装に落ち着いている。
 
世間との折り合いが悪い自分にとって絶対的な「かわいい」という価値。
 

 
ありのままで好かれるほどの美しさを持たずにうまれたのならば、まつ毛や爪を盛って「かわいい」で武装するしか自分を強く保てない。
 

 
だから、同じ職場で働く高橋さんの「モノトーン」ばっかりの着こなしが疑問に思えて仕方ない。
 
「かわいい」で武装もせず、どうして生きていられるの。どうしてそんなに強いの……。
 
コンプレックスを「カワイイ」で武装している田中さんには、どうしても武装せずに
 
いられる高橋さんが理解できない。
 

みんなそれぞれの「ひふ」をまとっている

 
「なんであんなにダサい服装なんだろう」
 
「なんであんな奇抜な服ばっか着てるんだろう」
 
ときおり他者に対して感じる着こなしへの疑問。その裏側には、みんなそれぞれの思惑や悩みや葛藤があって、みんな自分に合った落としどころを見つけて生きているのかもしれない……ということを、この作品を読んで思った。
 
ちなみに筆者は体格もがっしりしてるし、声も低いので、鈴木さんのような服装が全然似合わない。いつも派手な柄物や、ガーリーじゃない服ばかりを着ている。
 
「たまにはこんなんも着たら」と友人に連れていかれた「earth music&ecology」で、試着室カーテンを開けた瞬間大笑いされたのは多分一生忘れない。
 

 
縄文人は貫頭衣(かんとうい)と毛皮くらいしかなかったらしいから、服装に悩まなくてよかったと思うとちょっとうらやましい。(いやもちろん縄文人的にもいろいろあったかもしれないけど)。
 
現代の私たちの服事情は複雑化の一途を辿っている。
 

 
キャラとか、立場とか、他者からの評価とか、自分の好みなどのさまざまな思惑と、ブランドや色や素材などのさまざまな服の特徴と……。それらがないまぜになった絶妙な均衡のうえに私たちは「自分なりのファッション」を成り立たせている。
 
服装はまさに「ひふ」。さまざまな「ひふ」で自分をつくろう人々の本音が描かれたこの作品を読めば、他者の服装に関してもう少し思慮深くなることができるかもしれない。
 

人の「コンプレックス」が凝縮された短編集

 
『あたらしいひふ』は短編集。表題作以外にも、人間の「コンプレックス」が凝縮されたさまざまなストーリーがある。
 
ほくろの多さがコンプレックスの女の子と、そんな彼女のほくろを素敵だと思う男の子のお話「mole」。
 
一般的に「きつい」と分類される種類の体臭が好きな男の子と、自分から発せられるそのにおいに悩む女の子の話「flavor」など。
 
「自分のここがいやだな」と悩む男女のさまざまなコンプレックスが、視点を変えることで魅力に置き換えられる。その瞬間の美しさもぜひ必見なのでぜひご一読いただきたい。
 
コンプレックスに悩んだことがある全ての人が共感できる作品だ。
 
 
あたらしいひふ/高野雀 祥伝社フィールコミックス