龍と共に生きる人々の生活を覗き見る。お腹が空くファンタジー漫画『空挺ドラゴンズ』

レビュー

「ドラゴンクエスト1」をプレイしたことのある人なら、きっとドラゴンに対して思い入れがあるだろう。私はある。緑のあいつ。とにかくレベルを上げて戦った。達成感がすごかった。
それから何年か経ち、今度は「ドラゴンクエストモンスターズ」が発売された。今までのドラクエシリーズでは敵だったモンスターたちを今度は育てる、という内容。緑のあいつも仲間になるのだ。昨日の敵は今日の友。シリーズファンならカタルシスを感じたはず。

そういえば「ドラッグオンドラグーン」というPS2ソフトもプレイしたことがある。その鬱々としたストーリー性が話題になった作品だ。龍は仲間で、主人公を背に乗せた状態で操作できる。空中から炎を吐いて敵を倒すことが可能。立体的な龍を自分の思い通りに動かす。一家に一頭欲しいなと思った。通学用に。

冒頭からゲームの話ばかりで申し訳ない。漫画のレビューサイトだぞ!しっかりしろ俺!
とにかく私の思い出話は置いておくとして、これを読んでいる方の中にもそれぞれ「ドラゴン」への思い、想像する姿形があるだろう。
昔話や日本画で描かれる龍。あるいはファンタジー小説に出てくるドラゴン。メイド姿だったこともありますね。嫁がアニメにハマったので一緒に見てました。

さあ、今回ご紹介する『空挺ドラゴンズ』はドラゴンを食べる漫画だ。
ある作品では神聖な存在とされ、ある作品ではおとぎ話の一節に登場するドラゴンを、食べる。
つまりは「野生動物としての龍」がたくさん登場する物語である。

空挺ドラゴンズ
©桑原太矩/講談社

そこは大小様々、多種多様な龍が跋扈する世界。人々は龍という存在を時に恐れ、時にあやかりなが生活している。
そんな中、空を往くのは捕龍船クィン・ザザ号。龍を捕まえ、解体。食料や資源として活用することが生業の船だ。

乗組員は18名。龍を食べることしか考えていないミカ、新人のタキタ、真面目で融通の効かない性格のジロー、クールなお姉さんヴァナベルなど、これまた多種多様な面子が揃っている。
彼らが空を駆け、龍を捕り、生活を営む。
非常にシンプルだが、これが『空挺ドラゴンズ』のあらすじである。

さてこの漫画は『異世界食堂』『ダンジョン飯』などに代表される「異世界グルメ漫画」の一つに数えられている。
実際物語の中で、龍を様々な方法で調理し、食べている。読んでいるとお腹が空く。

例えばこちらのシーン。小さな龍を捕まえたミカとタキタが、コックのヨシに頼んで調理してもらうというもの。
パッと見はチキンだが、龍である。こんがりと焼きあがったチキンだが…龍だ。
料理名は「極小龍の悪魔風」。なんとも禍々しい名前ではないか。

ただ…というか、しかしというか、私たちの世界にも「悪魔風」という料理が存在する。
その名も「鶏の悪魔風」。龍ではない、チキンである。
つまり『空挺ドラゴンズ』に出てくる龍を使った料理は、現実世界にある料理のレシピを参考にして考えられている。他の異世界グルメ漫画にも言えることではあるが。

こちらも美味そう。超巨大なカツレツと具沢山なシチューをみんなで分け合って食べる。
肉体労働の多い乗組員たち、また、船を停めた町の人たちも混ざって。
…分け合ってと書いたが、さっきのシーンだと奪いながら食べているようにも見えますね。それぐらい美味いということでしょうか。
「今日の夜の献立どうしよう」と悩んでいる人は『空挺ドラゴンズ』を開けば良いと思う。
だいたいの答えはそこにある。

さて、ここまでは「異世界グルメ漫画」としての『空挺ドラゴンズ』を紹介してきたが、しかし果たして『空挺ドラゴンズ』は「異世界グルメ漫画」なのか?
…自分で言った前提を崩してしまって申し訳ないが『空挺ドラゴンズ』の魅力はグルメだけではない。
というか、グルメ部分は龍を食べることしか考えていないミカがいるからこその要素で、ストーリー、ドラマ性は別でしっかりと展開される。

一応、第1巻の表紙も飾ったミカが主人公的な立ち位置ではあるが、中身はキャラクターそれぞれを主役にした物語が集まっている、ショートショートのような印象。

上は乗組員ジローと町娘カーチャの話のワンシーン。
他の船の乗組員が酒場でカーチャに手を出した。彼女を助けるため、言葉で諌めるジロー。しかしそれがきっかけで、大人数での大乱闘が発生する。
その混乱の中、カーチャは助けてくれたジローを外へ連れ出す。そしてこの雰囲気。
甘酸っぱい。なんだろう、筆者である私は結婚しているはずなんですが、すごく悔しい気持ちになる。俺も中学生の時ぐらいにこんなことしたかった!

こちらは龍捕りの最中に船から落ちてしまったタキタと、はぐれ龍とのストーリーの一場面。
もちろん龍。猫や犬とは違い、私たちが知っている生き物の姿形ではない。飛ぶし。
しかし見ていると愛着が湧いてくる。洞窟の中で迷子になってちょっと涙目になるシーンもあり「もう!勝手にどっか行っちゃだめでしょ!」と言いたくなる。
この話には3巻が丸々使われており、かなりの読み応え。絵の描き込み具合も素晴らしく、見飽きない。漫画としての完成度がすごい。

『空挺ドラゴンズ』を読んでいると、飛行機で半日かけて行った先にある海外の生活を追っているような、そういうドキュメンタリー番組を見ているような気分になる。
そこでの人々の暮らし、息遣いが聞こえてくる気がする。
特別に、わざわざ、テレビ局がカメラを持ってきたから、龍を捕まえているのではない。
「自分たちの生活の一部には龍という存在がいて、普段からそういう風にしている」という部分を切り取った映像。そう思える。
日本ではない違う文化の生活を感心しながら、画面越しに見ている。

ここまでは漫画『空挺ドラゴンズ』の話。
そしてつい最近、2020年1月から『空挺ドラゴンズ』がアニメ放送されることが発表された。
さきほどの「画面越し」という表現が比喩ではなくなるのだ。
そこにはどういう生活が、人々が映っているのか。期待せずにはいられない。

空挺ドラゴンズ/桑原太矩 講談社