平成の終わりに、伝説の少女ギャグ漫画『B.B.Joker』をあらためて読んでみた

レビュー

母親の影響で、私は学生時代からよく4コマ漫画を読んでいた。当サイト「まんが王国ラボ」でも、4コマ漫画のレビューを中心に書かせていただいている。

さて、4コマ好きを標榜するからには、この作品を紹介しないわけにはいかない。1997年~2002年に「LaLa」(白泉社)で連載されていた、知る人ぞ知る伝説の少女ギャグ漫画、『B.B.Joker』だ。

B.B.Joker
©にざかな/白泉社

絵柄とギャグのミスマッチ具合が癖になる

いかにも少女漫画チックな絵柄なのに、登場人物たちはみんな個性的――有り体に言えば頭がおかしい。そんなキャラクターたちがブラックジョーク・下ネタ・不条理ネタを繰り広げるというギャップが、本作の最大の特徴。

現在でも、「面白い4コマ漫画は何か?」という話題になればよく名前が挙がる作品なので、読んだことはなくても絵やネタに見覚えがある人もいるかもしれない。

ネタ1本、あるいは1話単位で完結するオムニバス形式の作品だが、読者人気が高いキャラクターはレギュラー化することもある。代表的なメンバーを何人か紹介したい。

最も早くレギュラー化し、『B.B.Joker』の実質的な主人公ともいえる安藤。頭の中では常に変なこと(主にウ○コ)ばかり考えており、掴みどころのない言動で常識人の美佳を振り回す。とはいえ、そんな安藤が好きな美佳も大概変人である。

ホストの修。……と書こうとして単行本を読み返したところ別にホストではなかった、職業諸々一切不明のナンパ男。浮世離れしているように見えて、時代劇を観るのが好きなど庶民的な一面もある。毎晩違う女性と一夜を共にしているが、物語の終盤で彼に関する衝撃の事実が明かされる。

顔だけやたらリアルな1頭身の謎の生物、その名も「生物」。あまりにも気持ち悪い見た目なので作中の世界では忌み嫌われているが、単行本5巻の「好きなキャラクター」ランキングでは修に次ぐ2位と、読者には愛されていた。ただし、「嫌いなキャラクター」ランキング6位でもある。

稀代の少女ギャグ漫画家「にざかな」の正体とは?

一度読んだら忘れられないシュールなギャグを思いつく発想力と、そのギャグを繊細な絵で表現する画力を併せ持つ、『B.B.Joker』の作者「にざかな」。

天は二物を与えるとはこのことかと、初めて読んだときその才能に嫉妬すらしたものだが、「にざかな」は原作担当の「にざ」(一条マサヒデ氏)と、作画担当の「かな」(まさやようこ氏)の共同ペンネームだ。

漫画自体の相性とは裏腹に、ふたりのコンビ仲はすこぶる悪い。単行本の描き下ろしページでは、にざ氏とかな氏がお互いへの不満をぶちまけるのがお約束。最終巻のあとがきに至っては、「永遠にサヨウナラ」と絶縁宣言すら飛び出している。

作中には、彼らをモデルにした漫画家ユニット・十条くんと正木さんも登場する。考えるネタにも人間性にも問題がある十条くんを、正木さんは生理的に嫌っており、いつもコンビを解消する機会を伺っている。

連載が終わったのも不仲が原因なのではないか……と心配になるが、ふたりは現在(2019年2月)も「にざかな」名義で『4ジゲン』という作品を連載中。漫画の中で罵倒しあっても許されるくらい、強い信頼関係で結ばれているということなのだろう。

ちなみに、単行本4巻には、にざ氏とかな氏がそれぞれ単独で描いたマンガも収録されている。

にざ氏の『mensetsu』は、会社の採用面接を受けている女性のシュールな妄想を描いた不条理コメディ。

かな氏の『雪虫』は、将来に漠然とした不安を抱える少年が、雪の日に不思議な少女と出会う青春ストーリー。

もちろんどちらの作品も完成度は高いが、『B.B.Joker』本編を読んでしまったあとだと少し物足りなくも感じる。やはり、にざ氏のギャグセンスと、かな氏の画風が化学反応を起こすからこそ、「にざかな」の漫画は輝きを放つのだ。

『B.B.Joker』に見るブルー・オーシャン戦略

「レッド・オーシャン」「ブルー・オーシャン」というビジネス用語がある。業界全体の売り上げは減っているにも関わらず、電子書籍や漫画アプリの登場などで読まれる機会はむしろ増えている漫画界は、紛れもなくレッド・オーシャン(競合相手が多い領域)だ。

生き残るためには、ブルー・オーシャンを探さなければならない。そう考えると、『B.B.Joker』の「少女漫画の絵柄で不条理ギャグ」という唯一無二の作風は、まさにブルー・オーシャンと呼べる。

こんな漫画、当時はもちろん、今でも他にない。だからこそ、連載から20年近く経った現在も読まれ続けているのだろう。古いギャグ漫画と思うなかれ。『B.B.Joker』には、今の漫画界を救うヒントが隠されている。

B.B.Joker/にざかな 白泉社