お酒が、酒場が大好きだ。
心に残る1杯は疲労や悩みを打ち消してくれたり、旅の思い出になったり、人生を少し豊かにしてくれる。誰しもそんな記憶があるだろう。
お酒に関する豆知識やカクテルをめぐるさまざまな人間関係を描いた新感覚漫画、それが『まどろみバーメイド』だ。

とある街の一角に、ひとりの女性がバーテンダーが勤める「屋台バー」がある。
月夜に現れては、ふと消える不思議な屋台だ。

この不思議な酒場には、今宵もさまざまな人々が吸い込まれていく。
ちょっと天然、でもお酒にまっすぐな女性バーテンダー
起きるのが苦手な主人公の雪。夜更かしが苦手と称し、ふとすればウトウトしてしまうのんびり屋さんの彼女。
しかし、ひとたびカクテルをつくりはじめるとその眼差しはまっすぐなものに変わる。
どれほどの実力かと値踏みしにきたおじさんの「焼酎をつかったカクテル」という少し意地悪な要求にも、さらりと承諾する雪。
ちなみにこの話で描かれている「村雨」は麦焼酎をベースに、ドランブイと呼ばれるハーブや蜂蜜が入ったリジュール、レモンジュースをステア(バースプーンでかき混ぜる)してつくるカクテルだ。
しかし雪は、なんとステアせずにそれらをシェイク。
さらに本来ロックグラスに注ぐ品であるのに、カクテルグラスで提供するというイレギュラーぶり。
当然、マウントを取ろうとするおじさんはその間違いを指摘するが、何故だかイレギュラーなつくりかたのほうが美味しくて……。
そこに雪の客に対する真心と計算があった。
ロックグラスで提供すると、時間ともに溶けた氷の水分が出はじめ、比重の重いドランブイがグラスの底に溜まってしまう。
夏の暑い盛り、汗だくでやってきたおじさんのために、甘みがしつこくならないようお酒がよく混ざるシェイクで提供したのだという。
カクテルグラスを選んだのも、シェイクによって渾然一体となった味を短時間で飲みきれるようにするため……。
うとうととまどろむ彼女だが、オーソドックスなレシピに囚われない、客にとって最も必要とする味を提供する実力を持つのだ。
しかも村雨の味をより一層深めるため、麦焼酎にはとある一工夫がしてあって……!?
その一工夫は、自家製酒づくりや料理づくりが好きな人たちがおそらく一度は「味わってみたい!」と熱望する超レアなアレを使っているので、ぜひご一読を。
女の子たちがかわいい!かわいい!
ちなみに雪は、ふたりの女性と共同生活をしている。
カジュアルバーに勤め、ボトルやシェーカーを用いたパフォーマンスによって、カクテルを提供するフレアバーテンディングを得意とする日代子。
ありがとうGカップ……(合掌)
一流ホテルの高級バーに勤め、オーセンティックで、手堅い味のカクテルづくりを得意とする騎帆。
タイプの違う女性たちがカクテルをつくる様子を見られるところもこの作品の魅力だ。
他にも、美しいメガネのお姉さまや、
少女感あふれる笑顔が愛らしい女の子など、かわいい女の子がたくさん登場し、物語に花を添えてくれる。
作者の早川パオ先生は、もともと男性向けのイラストレーター。キャラクターの女性から醸し出されるオーラは、さすが女性を描き続けてきただけあるなあという感じ。
指先フェチもたまらないんだぞ
そして、この作品でオススメしたいのが「指先の描写」!
見ているとなんだか背中がむず痒くなるような、フワーッと吸い込まれてしまいそうな、美しい指先の動きにぜひ注目したい。
シェーカーを振るこの指先……。
ステアする右手とグラスに添えられた左手のフォルム……。
柑橘の皮で香りをつけるこの所作……。
いい……。
2巻後半からは物語が加速
女性バーテンダーが織りなす物語、2巻後半からは物語がグッと加速する。7月13日(金)に最新刊の3巻が販売されたので、ぜひ続きごとチェックしてほしい。
カクテルを取りまく、美しく、そして美味しいストーリー。読めばきっとその夜はバーカウンターでグラスを傾けてみたくなるかも!?
『まどろみバーメイド/早川パオ 芳文社』