70年代の一条ゆかりを見よ。華やかな女たちの愛憎劇『デザイナー』

レビュー

カッコいい女を描くのは難しい。
多くの男性は勝気すぎない女性を好むイメージがあるし、男性から好かれたいという前提がないにしても、自分自身の「強さ」を信じ、気高く強くあり続けられる女性は多くはない。
漫画の主人公になりやすいのは読者の多くが共感できる、あるいは応援したくなるキャラクターだろうから、どうしても「強い女」を描くことに主眼を置く漫画は珍しくなるのだろう。
今回は、そんな女と女の壮絶で激しい戦いを描いた1970年代の作品を取り上げたい。

孤高のモデルがその意地を武器にトップデザイナーに挑む

デザイナー
©一条ゆかり/集英社

『デザイナー』は、少女漫画界のトップランナーの一人・一条ゆかりが1974年に発表した作品で、彼女の初期代表作のひとつ。
主人公は苗字も素性も経歴も公表していない、孤高のファッションモデル・亜美(あみ)。
亜美はある日、自身をメインモデルとして重用もしているファッション界のトップデザイナー・鳳麗香(おおとり・れいか)が、憎むべき対象であることを知ってしまう。
動揺の中で交通事故を起こした亜美は足を負傷。日常生活に支障はなく、モデルを続けることそのものが不可能になるほどの怪我ではなかったにもかかわらず、「トップ以外なら最低も同じ」と、亜美はモデルを続けることを断念する。
そんな彼女のもとに現れた謎の青年実業家、結城朱鷺(ゆうき・とき)は、亜美にファッションデザイナーへの転向を迫る。亜美はこれを受け入れ、朱鷺のバックアップのもと、デザイナーとして麗香と同じ土俵に立ち、真っ向から戦いを挑むことになる。


 

華やかなファッションの世界を、強く美しく描き出す

第1話時点で18歳の亜美と、20代後半(と公称しているものの、実際はもっと上だというウワサのある)の麗香が、女として、プロフェッショナルとして、その世界のトップとしての意地をぶつけ合う。
その様には「なんでそこまで…」とも思わされる一方で、積み上げてきた努力に裏打ちされた確固たる自信によってまっすぐに背筋を伸ばして立ち、戦うことのできる彼女たちの姿は、少しうらやましくも思える。

華やかなファッション業界の物語であるということもあり、とにかく登場人物たちの容姿やファッションがきらびやかで美しいのもポイント。
(主要な男性キャラクターたちも、当たり前のように全員長髪だ!)
作中で重要な山場となるファッションショーのシーンなども、ゴージャスで見ごたえがある。

時代を感じさせると言えば言えるが、これは「1970年代の名作少女漫画」全般に共通する特徴であり(『ベルサイユのばら』『ガラスの仮面』『はいからさんが通る』…といった作品が生まれた時代である、といえば何となくわかってもらえるだろうか)、この雰囲気も含めて、世界観にどっぷり浸るのがおすすめだ。

女の子の最先端は、いつも「りぼん」にあった

亜美、麗香、朱鷺…彼らをめぐって、作中では次々に激しいドラマが巻き起こる。
特に後半の、目を覆いたくなるような熾烈な展開は圧巻だが、そのひとつひとつのエピソードがとにかくスピーディーに進んでいく。
メリハリの効いたストーリーと演出で濃いドラマをわずか2巻分のボリュームで描ききり、読者に重い読後感をもたらす手腕にはうならされる。

さらに驚くべきは、この作品の掲載誌が「りぼん」であったことだ。
漫画雑誌自体の数が少なかった(そもそも、大人の女性向け漫画雑誌は、まだほとんど存在しなかった時代だ)とはいえ、骨肉の争いや登場人物の妊娠なども描かれる本作は、小学生も読む雑誌に載せるには、だいぶショッキングな内容だったと思われる。

でも、少し考えてみれば…筆者が読者だった頃(『こどものおもちゃ』『神風怪盗ジャンヌ』は衝撃だった)も、最近(『さよならミニスカート』とても気になっています)も、いつだって「りぼん」は刺激的、革新的な少女漫画の宝庫だったように思う。
そして一条ゆかりという漫画家もまた、時代の変化に合わせて作風・画風を柔軟にアレンジしながら、1970年代から現在までずっと、熱く華やかな女たちのドラマを描いてきている作家なのだ。
超メジャーにしてずっと最先端を担ってきた漫画誌と漫画家の偉大さに思いをはせながら、このコンパクトな名作を堪能してみてほしい。

デザイナー/一条ゆかり 集英社