オリンピックムードを盛り上げよう!毎秒笑える女子体操4コマ『はんどすたんど!』

レビュー

2020年の東京オリンピック開幕まで既に2年を切っていると知り、時の流れの早さを実感する。猛暑の中で競技を行う選手たちの健康面、会場の工事を請け負う建設会社の経営破綻など課題が山積みではあるものの、大会が無事に開催されることを願わずにはいられない。

今回紹介するのは、オリンピック種目でもある女子体操がテーマの『はんどすたんど!』。女子体操も、パワハラ問題が世間を騒がしたのは記憶に新しいが、そんな暗いムードを吹き飛ばす明るさを持った4コマ漫画だ。

はんどすたんど!
©有馬/芳文社

外は寒くてもハートは熱い、体操部4コマ

物語の舞台は、北海道のとある高等学校。中学時代に体操をしていた真白ゆかは、高校に体操部がないことに入学してから気付き、自ら部を立ち上げる。

部員の募集をかけて集まったのは、アクの強い生徒たちばかり。小学生かと思うほどちんちくりんな新城ななみ。ふわっとした名前に反して気が強い乙宮いちご。同じく、名前とは裏腹にネガティブな性格の晴沢ひなた

左から、ゆか、ななみ、いちご、ひなた

まずは実績づくりと部室の確保を目指し、ゆか以外みんな初心者の体操部がスタートする。

最初に目につくのは、ななみのキャラクターだ。一応、彼女が本作の主人公ということになっているが、役割としては周囲を引っかき回すトリックスターに近い。

豊富な語彙から放たれるハイセンスなセリフの数々は、それを追いかけていくだけでも楽しい。常に口を開けて笑っている表情も、かわいいはずなのに妙な威圧感があって、夢に出てきそう。

一方、常識人のゆかもたまに大ボケをかますときがあり、その際はななみがツッコむことも。

この子はボケ役、この子はツッコミ役と、単純には分類できないキャタクターたちが複雑に関わり合い、多様な笑いを生み出してくれる。「毎秒笑える」というキャッチコピーは、決して大げさではない。

まるでコントのような競技シーン

部室でおしゃべりしたり、自宅で勉強会を開いたりといった日常回も充分に面白いが、本作の見どころは何といっても体操の競技シーンだ。

特に、高体連や新人戦などの大会のエピソードは必見。練習とは比較にならないプレッシャーに晒された部員たちは、まるでコントのような演技を繰り広げてしまう。

ひなたは、ミスを恐れるあまりいつも小刻みに震えている。運動音痴のいちごは、そもそも演技と呼べるレベルに達していない。ななみは素質こそあるものの、全体的に雑で手足が伸び切っていない。唯一の体操経験者であるゆかも、本番になると緊張してしまいとんでもないミスをやらかす――。

ただし、本人たちの名誉のために言っておくと、彼女たち自身は真摯に競技に取り組んでいる。

ウケ狙いでわざとふざけているのであれば、「体操を馬鹿にしている」と眉をひそめる読者もいるかもしれない。あくまでもまじめだからこそ、心置きなく笑うことができるのだ。

ぎこちなくも必死に演技をするななみたちは、生まれたばかりのひよこのようにほほえましい。そして、何度ミスをしても諦めずに演技をやりきる姿に、最後は拍手を送りたくなるに違いない。

「ギャグ」と「成長」の両輪

体操部が廃部の危機に陥ったり、部員同士がケンカをしたり……などというシリアスな展開は一切なく、『はんどすたんど!』は終始コメディタッチで物語が進んでいく。

しかし、1巻から順番に読んでいくと、ななみたちが確実に上達していっていることに気付くはずだ。入部したてのころは体がガチガチに硬かったいちごも、終盤にはかなり柔らかくなった。

初めて出場した高体連で一生分の恥をかいた部員たちは、同じ過ちを繰り返すまいと、個々の得意種目を伸ばしていく決意を固める。

ひなたは「慎重すぎる」という短所を逆手に取り、落下が大きな減点となる平均台。体操部に入ってから逆上がりができるようになって自信をつけたいちごは、段違い平行棒。思いきりだけはあるななみは、助走がカギを握る跳馬。ゆかも、緊張を克服する術を見つけて本来の実力を発揮できるように。

最初、平均台の上を歩くのがやっとだったななみたちが、大勢の観客の前で堂々と演技できるようになったときは、思わず目頭が熱くなった。本作を読む際は、部員たちの技術面、精神面の成長ぶりにもぜひ着目してほしい。

2020年には間に合いそうにないが、『はんどすたんど!』を読んだ子どもが体操を始め、オリンピックに出場する。そんな日がいつか来るかもしれない。

はんどすたんど!/有馬 芳文社