学園モノ×フェチの化学変化。 「植芝理一」作品の摩訶不思議ワールドを体感せよ

まとめ

現在「月刊アフタヌーン」にて『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』を連載している漫画家・植芝理一先生をご存じでしょうか? 彼の作品はアニメやCDドラマなど、メディア展開されてはいますが、その認知度はまだ“知る人ぞ知る”レベルではないかと感じています。
 
先生の作品は、作風のベースはごく普通のラブコメなのに、そこに作者の「フェチ」が加わることで唯一無二の作品に仕上がっています。ときにオカルト、ときにSFといった視点を持つ作品たちは、ただストーリーを追うだけではないひと味違った楽しみ方もできますよ。そんな植芝先生の作品を、時系列で3作紹介します。

 

原点であり、頂点でもある異色のSF恋愛ワールド『ディスコミュニケーション』

ディスコミュニケーション
©植芝理一/講談社
 
あなたは、人を好きになった理由を考えたことはありますか?
交際相手、結婚相手の、どこが好きかどうか――顔、性格、食の好み、はたまた性的な相性がよいなどさまざまな理由が上げられるかもしれません。本作は、主人公の女子高生・戸川安里香(とがわ ありか)が彼氏・松笛篁臣(まつぶえ たかおみ)のことを「なぜ好きになったのか」という問いから始まる物語です。
 
松笛はヘンテコな男子学生。年頃にも関わらず、デートやキス、セックスではなく「耳かきをさせてほしい」「涙を飲ませてほしい」などヘンテコなことばかり戸川に要求します。それでいて、謎の仏像や装飾品などのコレクション癖や霊能力があるという、ただものじゃないキャラクター。戸川のどこが好きなのかも、読者にはよくわかりません。
 

 
ある日、異世界から来た刺客に目をつけられた松笛は、冥界へと飛ばされてしまいます。また戸川も、刺客の罠で眠らされてしまい、夢の中で松笛に会うべく奮闘します。2人が出会った頃を回想する別の世界線へ飛んだり、もう一人の自分に助けてもらったりと、複雑に重なり合うパラレルワールドのなかで2人は本物の彼氏・彼女に会いにいきます。
 
これが本作の序盤である「冥界編」のあらすじ。冥界を駆け抜けた戸川と松笛の“精神的なつながり”は、「どこが好きか」なんて考える必要もないくらい愛に満ちていて、深いなと感じさせられます。
 
ジェットコースターのようなストーリーはもちろん、随所に現れる作者の趣味全開の描き込みもまた本作のポイント。元ネタは民俗学、神道、オカルト的なものから、YMO、特撮など……コマの隅から隅まで見逃せません。「冥界編」の後は学園編、内宇宙編、精霊編と続き、次第に学園で起きる超常現象を解決していくような物語になっていきます。
 

ロリコン、特撮、同性愛…!? “アクが濃すぎる”美少女バトル漫画『夢使い』

夢使い
©植芝理一/講談社
 
『ディスコミュニケーション』で登場したキャラクター・三島塔子(みしま とうこ)、三島燐子(みしま りんこ)の姉妹が主役のスピンオフ的作品。ただし、「ディスコミ」とは別世界の話とされているようです。古代呪術集団“遊部(あそびべ)”の末裔で「夢使い」と呼ばれる三島姉妹が、学園で起こる不可解な事件に立ち向かう――いわゆる「美少女バトル漫画」というところですが、「ディスコミ」以上に作者の趣味が全開。人を選ぶフェチ&マニアック感が本作の魅力です。
 
たとえば1巻~3巻にわたる「虹の卵」編は、女学園に通う男の娘・見上漾子と彼を慕う女生徒とのハーレム(もしくは同性愛)、両性具有、カニバリズムなどの要素を下敷きに描かれています。
また、主役の「夢使い」たちのアクションには特撮や文学へのオマージュがあります。呪具の杖におもちゃを収めることでそのおもちゃと一体化して戦えるという、戦隊モノを彷彿とさせる攻撃の仕方をしていたり、「現実(うつしよ)は夢、夜の夢こそ真実(まこと)」という江戸川乱歩が自身のサインに書き添えていた言葉を決め台詞にしていたりします。
 

 
難解な世界観にちりばめられた元ネタや専門用語――物語の真実を予想したり、妄想するような楽しみ方ができる点も、この作品のおすすめポイントです。
 

触れたいけど触れられない“正体不明”の恋愛漫画『謎の彼女X』

謎の彼女X
©植芝理一/講談社
 
主人公の男子高校生・椿明(つばき あきら)は、転校してきたクラスメート・卜部美琴(うらべ みこと)が気になる。女子生徒からのランチの誘いを断ったり、授業中突然笑い出したり、とってもヘンな女の子。ある日、教室で居眠りをしている卜部を起こすと、机には彼女のよだれが。なんとなくそれを舐めてしまった椿は、“恋の病”を起こしてしまい、卜部のよだれを舐めないと禁断症状を起こしてしまう体に。謎の彼女、卜部との恋愛ストーリー。
 

 
「夢使い」に比べるとずいぶんシンプルな学園モノなのですが、“よだれ”というキーワードを用いることで変態的な作風に仕上がっていて、そこが植芝作品らしさにつながっています。また今作は、お互いが恋愛経験の浅い高校生なので、恋愛はなかなか進展しません。椿は卜部にはやたらとボディタッチできないし、触ると怒られてしまうので、キスをしたときのことを思い出してニヤけたり、胸が強調されたセーターで興奮したり。
 
思春期特有の“あるある話”を男性目線で追体験しながら、彼らの恋愛を応援してみませんか。直接的ではなくても感じるエロさは、ただの青年漫画じゃもの足りない方には新鮮かもしれません。卜部のかわいい仕草と、ハサミを使った器用な特技も見どころですよ。
 
植芝先生は、早稲田大学在学時から漫画を書き始めて、今年でデビュー27年。その作品を追っていくと、漫画とは自己表現であり、作者自身なのだと感じます。もし筆者が今漫画を描くとするならば、その手本は絶対、植芝先生。コマの隅から隅にまで趣味を爆発させて、本編と関係ないことも書いて、自分をという芸術を多くの人にアピールしてみたいと思います。そんな気持ちにさせる摩訶不思議ワールド、ぜひ読んでみてください。
 
 
ディスコミュニケーション/植芝理一 講談社
夢使い/植芝理一 講談社
謎の彼女X/植芝理一 講談社